懲戒処分・懲戒解雇(諭旨解雇)
懲戒の有効性の判断においては、懲戒処分が就業規則に則っているかどうかが重視されます。
勿論、就業規則の内容が合理的であることや、就業規則が事業場の労働者に周知されていることも必要です。
懲戒処分・懲戒解雇(諭旨解雇)
- 懲戒処分
- 懲戒処分の原則として次の5つが挙げられています。
- 明確性:就業規則等に懲戒規定がある(且つ、周知手続きが取られていることで拘束力が生じる)
- 該当性:処分を行った事実が懲戒事由に該当している
- 相当性:処分が社会通念に照らして相当である
- 一事不再理(二重処分の禁止):後から課した処分は権利乱用で無効である
- 手続きの厳守(弁明の機会を与える)
- 懲戒当時に認識していなかった非違行為を、後から追加的に懲戒理由とすることはできません。
- 労働者の行為の性質、態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は、懲戒権の濫用として無効となります。
- 懲戒としての「減給」については、労基法により1回の減給の額は平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、減給の総額は1つの賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない、という規定が適用されます。
- 懲戒解雇(諭旨解雇)
- 懲戒解雇も懲戒の1つなので、上記「懲戒処分」に記載した注意事項が該当します。
- 懲戒解雇(諭旨解雇)においては、退職金の全部又は一部を不支給とすることがありますが、退職金規程等にその旨規定していたとしても、その有効性は懲戒解雇事由により判断されます。
<裁判例>
地位確認等請求事件 平成25(ワ)6929 H28.01.14/東京地裁 |
製紙会社の経営企画課長が、海外の現地法人などの関連会社の決算処理に不正があるとの内部告発したことに対し、降格され、更に北海道の関連会社への出向命令に従わなかったことで懲戒解雇されたため、地位確認や賃金の支払い及び不法行為に対する損害賠償を求めた事件 内部告発については、「正当性を欠く」とした上で、就業規則違反による降格処分は不当とはいえない」と判断 一方、出向命令は人事権の濫用であり、それを拒否したとしても、懲戒事由には当たらないとし、懲戒解雇は無効と判断し、地位の確認及び賃金の支払いを認めた |
神奈川県私立大学理事退職金請求 平成23(ネ)67242 H24.03.07/東京高裁 平成22(ワ)144 H23.09.12/東京地裁 |
リスクの高い資産運用で失敗し多額の損失を出した学校法人で、理事会の理事が、善管注意義務違反が退職金規程の不支給理由に該当する、或いは損害賠償と相殺するとして不支給となった退職金とその遅延損害金の支払を求めた事案 一審と同じ 退職金(約2500万円)及び遅延損害金の支払いを認める 退職金規程の不支給事由は、教職員に対するもので、理事の行為に関する規定ではない 病院担当の一理事で投資を主導した訳でもなく、その功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があったとまでは認め難い 道義的責任として、役員退任慰労金(200万)を自主返上し、理事の職務手当及び賞与を一部寄付(574万円)していることも考慮 |
京阪バス諭旨解雇 平成21(ワ)3362 H22.12.15/京都地裁 |
バス運転手が点呼時にアルコールチェッカーの反応が出たことにより諭旨解雇(過去に2回同じ理由による懲戒履歴あり) 社内報告書が通常のアルコール分解速度に照らして不合理な内容に事後的に改変されていたと指摘して、解雇権の濫用を認めたほか、不法行為責任をも認めた ・残業代等の賃金請求は認めず ・賞与について、一部請求を認める ・不法行為による損害賠償(慰謝料)50万円+弁護士費用10万円 |
(独)勤労者退職金共済機構退職金減額率決定取消 平成21(行ウ)11 H22.07.22/仙台地裁 |
合資会社社員が売上金の着服により懲戒解雇されたが、会社が中退共の退職金を80%に減額するよう厚生労働大臣に申請し、大臣が認めたことから、独法がその旨原告に通知 退職金の減額決定は、法に基づいてなされるもので、独法による減額通知は、行政訴訟法の「処分」ではなく訴訟要件を欠く(独法が訴訟を提起できるかのような誤った教示をした)ので訴訟を却下 |
キャンシステム退職金請求 平成16(ワ)12622 H21.10.28/東京地裁 |
キャンシステムを退職した元役員が設立したUSENの関連会社に、キャンシステムを一斉退職して移った314人が、キャンシステムに退職金の支払を請求した事件 労働者代表の意見聴取、監督官庁への届出、労働者への周知の各義務は、取締規定で効力規定ではないし、希望すれば閲覧することができたことから周知の手続きはとられていた 退職金規定が功労報償的性格を有する場合、勤続の功を抹消ないし減殺する程度の背信性ある同業他社への転職の場合に限り、退職金半額支給とする趣旨の社内規定は有効 一斉退職の当初1週間の間に退職した者らは、会社に重大な損害を与えることを意図、認識又は予見しながら一斉退職の共謀があったと推認でき、引き継ぎもしなかったことは懲戒解雇理由となり、退職金の不支給相当となるが、その後退職した者らは、共謀が認められず、懲戒解雇は無効で、退職金の減額も認められない |
福岡県私立大学教授懲戒解雇 平成19(ワ)3993 H21.06.18/福岡地裁 |
私立大学の教授で、且つ、組合の委員長が、建築学関係の非常勤講師による講座開講に協力せず、むしろことごとく積極的に妨害したとしての懲戒解雇は解雇権の濫用として無効であり、賃金、賞与、退職金、慰謝料を請求した事件 非常勤講師の委嘱を妨害する可能性のある非違行為ではあるが、懲戒解雇にすることは懲戒権の濫用である 訴訟中に定年日を経過しているので、地位確認は認めず 未払い賃金、賞与、退職金、慰謝料(100万円)の支払いを認める 賞与については、全員一律の支給率であったことから、支払いを認めた |
椿本マシナリー懲戒解雇 平成19(ワ)21941等 H21.04.24/東京地裁 |
取締役兼東京支店支店長が、慰安旅行や日常でのセクハラ行為により取締役解任と懲戒解雇されたが、懲戒解雇は重きに失する上、手続等も不十分なものとして無効と訴えた事件 職務、職位を悪用したセクシャルハラスメントにあたるが、これまで何らの指導や処分をせず、直ちに懲戒解雇は重きに失し、権利濫用として無効 |
京電工諭旨解雇 平成19(ワ)1560 H21.04.23/仙台地裁 |
電気工事の技術管理職が、社有車で交通事故を起こし、それまでの度重なる不注意による工事ミス及び交通事故と合わせて、退職届の提出を求められ応じたものの、その後動機の錯誤として退職届を取消したが、懲戒解雇理由がないのに諭旨解雇されたとして、不法行為に基づく損害賠償、未払い残業代及び付加金とそれらの遅延損害金の支払を求めた事件 諭旨解雇の合理的理由は認められるが、手続きが違法であり不法行為が成立する ・逸失利益は、解雇予告手当相当額 ・慰謝料10万円 労働時間管理をタイムカードで行っていたのであれば、例えパソコンゲームをしていたとしてもタイムカードの時間に基づくとして、未払い残業代と付加金(未払い残業代の1/2)の支払いを認める |
モルガン・スタンレー証券年金請求 平成20(ネ)3781等 H21.03.26/東京高裁 平成18(ワ)4054 H20.06.13/東京地裁 |
モルガン・スタンレー日本法人で、会社に通知することなく公認会計士協会に対して訴訟を提起し、会社から訴訟を取り下げるよう指示されたにもかかわらずこれを取り下げなかったこと、同訴訟について顧客に喧伝したことを理由として懲戒解雇されたエグゼクティブディレクターが、未払の追加退職金約6000万円と遅延損害金の支払を求めた事件 (尚、懲戒解雇については、原告の敗訴が確定している) 控訴棄却 追加退職金は、業績に基づく各自の年総額報酬と基本年棒の差額である裁量業績賞与を割り当てた任意的恩恵的給付 年金ではない、また賃金でもないことから、「不支給は勤続の功労を抹消してしまうほどの背信性があった場合に限られる」との主張は失当 社内規程の「会社の利益又は名声に実質的な損害を与える行為」に該当すれば不支給となりうるとして請求を棄却 |
東京都私立大学教授懲戒解雇 平成19(ワ)12956 H20.12.05/東京地裁 |
無許可で兼職又は事業したこと、及びそのことにより休講・代講が多く職務専念義務違反等により懲戒解雇された私立大学の教授が、解雇権の濫用として無効を主張し、賃金、賞与、慰謝料を請求した事件 懲戒解雇を無効とし、未払い賃金、賞与、慰謝料(50万円)の支払いを認める 兼職又は事業は、夜間及び休日に実施されており、労務提供に支障が生じているとは云えず、就業規則に実質的に違反していない 政府機関の国際会議で同時通訳をするため休講したとしても、職務専念義務に違反するとまでは云えず、事前に注意指導もなくいきなり懲戒解雇は重きに失する 学内の教職員が閲覧できる学内ネットワーク上の掲示板に懲戒処分を1年以上も掲示したのは不法行為にあたる |
西日本鉄道懲戒解雇 平成19(ネ)418 H20.03.12/福岡高裁 |
ワンマンバス運転士が、乗客の遺留したバスカードの領得等を理由に懲戒解雇されたことにつき、会社による巡視、事情聴取及び懲戒解雇は違法であると主張して、不法行為に基づく損害賠償と遅延損害金を請求した事件 服務規律違反は明確で、額が少額であっても懲戒解雇としていたこと、労働組合も懲戒解雇を承認していることから解雇は有効 (1審は、懲戒解雇は解雇権濫用で違法として、損害賠償(逸失利益219万円、慰謝料50万円、弁護士費用20万円)と遅延損害金の支払いを認容) |
三菱電機懲戒解雇 平成17(ワ)213等 H20.02.28/神戸地裁(尼崎支部) |
多数回に及ぶ不正な出張旅費精算による懲戒解雇の有効性、懲戒解雇に伴う退職金不支給の有効性、並びに、会社側から当該社員が不正受給した出張旅費である不当利得の返還、顧客やマスコミに製品品質の問題の隠蔽をしていると通知したことの名誉・信用毀損による不法行為に基づく損害賠償、同種行為の差止め、及び技術資料等の返還を求めた事件 懲戒解雇事由に該当し、手続きも問題なく、懲戒解雇は有効で、重大な背信行為により退職金不支給も有効である カラ出張が明らかなものにつき不当利得の返還と会社への損害賠償(計1824万円)の支払いを認容 |