解雇・雇止め
厚生労働省の個別労働紛争相談件数で最も多いのは解雇の問題です。労働裁判の統計値は調査していませんが、恐らく同様に解雇に関する争いが多いものと思われます。
労働契約法16条は、「解雇は客観的合理的理由と社会通念上の相当性を欠く場合には、権利を濫用したものとして無効とする」と規定していますが、この規定は、判例法理の形で存在していた解雇権濫用法理と呼ばれる解雇制限法理が条文化されたものです。そこで、解雇の有効・無効は、過去の裁判例に照らして判断する必要があります。
尚、解雇に関する法規制については、「労務管理ガイド」の「退職・解雇に関する法規制」のページを参照下さい。
解雇・雇止め
- 普通解雇(労働者側に理由のある解雇)・退職勧奨
- 解雇事由を「退職に関する事項」の一環として就業規則に記載する必要があります。労働者側の事情による主な解雇理由は次の通りです。
- 傷病等による労働能力の低下
- 能力不足・適格性欠如
- 規律違反・非違行為
- 就業規則上の解雇事由の定めをめぐっては、解雇事由を限定的に列挙したものか、或いは例示的に列挙したものかが問題になることがありますが、「その他前各号に準ずる場合」等の包括的な定めがあれば、いずれの場合でも大差ありません。
- 通常、試用期間は解約権留保付労働契約で、従業員としての適格性を判定する期間とされています。それ故、通常の解雇より広く解雇の自由が認められていますが、それでも解約においては客観的合理的理由と社会通念上の相当性が必要であることに変わりありません。
(尚、適格性判定には入社時提出書類も考慮されるので、これらにおける事実の秘匿や虚偽申告は、解約の理由になることがあり得ます)
<裁判例>
労働関係存在確認等請求事件 平成25(ワ)22110 H27.03.12/東京地裁 |
図書館の指定管理者に、1年の有期雇用契約を締結した司書が、更新1回で雇止めされたのは、信義則に照らし許されず、違法、無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、賃金及び遅延損害金の支払を求めた事件 雇止め無効、賃金及び遅延損害金の支払いを認めた 指定管理者契約は5年間で、一定数の司書を配置する必要があり、図書館業務の効率的運営のため従業員を継続して雇用する方針をとっていたこと、会社都合で雇止めした従業員がいなかったこと、等から、労働契約が更新されるものと期待することに合理的な理由があった 勤務態度についても、社会通念上更新拒絶が相当であるとは認められない |
ブルームバーグ・エル・ピー事件 平成24(ネ)6853 H25.04.24/東京高裁 平成23(ワ)8573 H24.10.05/東京地裁 |
米通信社ブルームバーグ東京支局の元記者が、「能力不足」を理由に解雇されたのは不当だとして、地位確認及び解雇後の賃金の支払いを求めた事件 地位確認と賃金支払いを認める(一審と同じ) 解雇は客観的に合理的な理由を欠き無効であるとして、地位確認と賃金支払いを認める |
ライトスタッフ事件 平成23(ワ)14265 H24.08.23/東京地裁 |
保険代理業の社員数名の零細企業で、3ヶ月の試用期間の1ヶ月経った頃、受動喫煙による体調不良を訴えたところ、受動喫煙との因果関係を明確にするため1ヶ月の休職を命じられ、その後本採用拒否 解雇無効として本採用拒否後他社に再就職するまでの期間の未払い賃金の支払いを認める 試用期間とはいえ、解雇権濫用法理の基本的な枠組を大きく逸脱するような解約権の行使は許されない (受動喫煙防止措置や損害賠償については請求を認めなかった) |
東京都私立大学職員解雇 平成21(ワ)9644 H22.07.12/東京地裁 |
英語能力とマネジメント能力を期待して、私立大学の国際交流センターで、交換留学生の派遣及び受入れに関する業務の企画とマネジメントに次長として採用したが、能力不十分で、半年から1年毎に2度配転したがいずれも能力不足だったため解雇 解雇無効として未払い賃金等の支払いを認める 業務態様や業務状況における問題行為が認められるが、就業規則に該当する事由はなく、また、原告の行為等をもって原告を解雇に処することは、著しく不合理であって社会通念上相当なものとはいえない |
小野リース解雇 平成21(オ)1727 H22.05.25/最高裁・仙台高裁 平成19(ワ)2063 H20.12.24/仙台地裁 |
糖尿病にり患し、アルコール依存症で、勤務態度や飲酒癖について、従業員や取引先から苦情が寄せられていた事業統括部長兼取締役が、社長に、「(自分を)辞めさせたらどうか」といったため、退職願を提出するよう言われたが退職願を提出しないので解雇された 中途入社時から幹部従業員であったことからすると、勤務態度を改める見込みも乏しく、解雇は有効(損害賠償請求却下) 就業規則の普通解雇事由に該当するが、勤務態度や飲酒癖を改めるよう注意や指導をしていなかったことから、社会通念上相当として是認するまではできないとして解雇無効 不法行為による逸失収入(賃金+賞与)相当額(6ヶ月分)の損害賠償 |
- 雇止め(有期労働契約の更新拒否)
- 有期労働契約の雇止めについては、次の2つの場合には客観的に合理的で社会通念上相当な理由が必要となる、という解雇権濫用法理の類推適用がされます。
- 反復更新により実質的に期間の定めのない労働契約と同視できる場合
- 契約更新について合理的な期待が認められる場合
- 解雇権濫用法理が類推適用されたときは、解雇と同様に、労働者に理由がある場合は普通解雇、経営上の都合であるなら整理解雇の観点から有効・無効を判断することになります。
<裁判例>
雇用関係確認等請求事件 平成21(ワ)2508 H24.12.05/東京地裁 |
航空業界専門の派遣会社「TEI」から派遣され、トルコ航空で客室乗務員として働いていた女性社員13人が組合活動を理由に不当解雇されたとして、同社・派遣会社双方に地位確認を求めた事件 派遣会社による契約途中での解雇を無効とし、残りの契約期間分の賃金支払いを認めた 1年契約を7回更新した社員もいたが、派遣の場合、更新への期待は合理性がなく保護されないとして、雇止めは認めた トルコ航空との黙示の雇用契約の成立は認めなかった |
いすゞ自動車雇止 平成21(ワ)10678 H24.04.16/東京地裁 |
いすゞ自動車の期間労働者又は派遣労働者が、雇止め無効、予備的に賃金と休業手当の差額、満期慰労金や慰謝料等の支払いを求めた事件 正社員と期間労働者間には明瞭な差異があり、実質的に期間の定めのない労働契約であったとは認められないが、通算契約期間を3年とする運用がされていたことから、少なくても2年11ヶ月までの雇用継続は期待されていたものとし、雇止めには解雇に関する法理が類推適用されるべきとした上で、雇止めを有効と判断 3年規定及び2年11ヶ月運用に基づく雇止めが直ちに有効になるか否かは別論として、このことで臨時従業員の期間管理そのものが公序良俗に違反するとまではいえない 休業期間中の賃金については100%の支払いを認めた |
日本航空雇止 平成22(ワ)28073 H23.10.31/東京地裁 |
日本航空の契約社員である客室乗務員が、1年契約を1回更新後、2回目の更新がされず雇止め 平成6年以降、客室乗務員の採用において、1年間の契約社員から始め、同契約を2回更新後、正社員とするという雇用形態をとっており、募集要項でもそう説明があった(即ち、契約社員としての3年間は、試用的な有期雇用契約期間と位置付けるもの)ことから、解雇権濫用法理が類推適用されると解すべきであるが、契約期間中の指導育成も概ね適切であり、業務適性を欠くという最終判断による雇止めは有効 一部違法な退職勧奨を認め、慰謝料(20万円)の支払いを認める |
日野自動車雇止 平成22(ネ)7003 H23.06.22/東京高裁 平成21(ワ)742 H22.09.30/東京地裁 |
当初出向、その後派遣契約切換え(労働局の是正措置)、更に直接雇用の期間従業員として日野自動車で就業していたが、平成20年秋以降の世界同時不況により雇止め 控訴棄却(一審とほぼ同じ) 下記により雇止め有効 実質的には期間の定めのない契約と同一の状態にあったとか、少なくとも2年11か月の雇用期間の定めがあったものと認めることはできない 世界同時不況下の景気の悪化によるトラック需要の大幅減少及び経営悪化を理由とし、雇止めの客観的で合理的な理由がある 期間従業員の雇用維持のために,正社員の希望退職募集や配転、出向、転籍等の措置を講じるべきであるとはいえない 組合との団体交渉も十分な質疑応答がされている |
新潟県私立高等学校非常勤講師雇止 平成19(ワ)880 H22.12.22/新潟地裁 |
私立高校の2人の非常勤講師(期間を約1年間とする有期雇用契約を毎年更新)(各約25、19年勤務(途中一部産休あり))を生徒数減と専任教員の授業持ち時数増により、非常勤講師の勤務時数がなくなるとして、1ヶ月の雇い止め予告後、H19.3月雇止め クラス担任、部活指導、校務分掌(教務,生徒指導等)がなく、兼職も禁止されておらず、給与体系や適用される就業規則も異なり、専任教員とは差あり 雇用継続を期待することに合理性があり、解雇権濫用法理を類推適用 本人に落ち度がないことから整理解雇に該当 人員削減の必要性は認められず、雇止め回避努力も何らなされておらず、事前・事後の協議・説明も不十分であることから、解雇無効 |
エフプロダクト雇止 平成21(ワ)4484 H22.11.26/京都地裁 |
定年後の再雇用の雇止め 再雇用契約書には、労使協定や就業規則に記載されていない、「会社の経営の都合で人員削減の必要上やむを得ないとき」契約終了できるとあり 雇止め無効 就業規則に違反する規定は無効 雇用継続を期待する合理的な理由があり、雇止めには解雇権濫用法理を類推適用 雇止め回避努力が十分でなく、選定基準にも合理性がない(整理解雇の要件を満たしていない) |
京都新聞COM雇止 平成20(ワ)4184 H22.05.18/京都地裁 |
親会社の事業部門が子会社に移管されたことによりH18.4に転籍した契約社員2名が、更新は3年迄とする3年ルールにより、H21.3に雇止め(通算の勤続7年9ヶ月、更新10回及び勤続4年11ヶ月、更新4回) 雇止め無効 契約更新手続きからして、期間の定めのない雇用契約に転化した、又はそれと実質的に異ならない関係が生じたと認めることはできない 一方で、正社員との採用方法や勤務体系に違いがあり、契約社員規程に3年ルールが明記されているが、適用が厳格ではなかったこと、及び業務内容から、契約の更新を期待することには合理性があるとして雇止め無効 |
- 整理解雇(経営上の理由による解雇)・退職勧奨
- 経営悪化等の経営上の理由による人員削減のための整理解雇における解雇権濫用については、次の4つの観点から判断されます。
- 人員削減の必要性
- 十分な解雇回避努力
- 被解雇者選定の合理性
- 被解雇者や労働組合との間の十分な協議
- 上記の4つの観点については、以前は全て満たすべき「要件」とされていましたが、近年では総合判断の中で考慮される「要素」と考える裁判例が多いようです。
- 会社からの退職勧奨に社員が応じると、合意による「退職」となり、「解雇」には当たりません。退職勧奨に応じるかどうかは社員の意思によることとなり、次のような場合は無効となります。
- 退職の強要(社員が退職を拒否しているにもかかわらず繰り返し退職勧奨を続け、退職に追い込むよう執拗に迫る)
- 違法行為(女性であることや労働組合員であること、婚姻、妊娠、出産などの差別的な理由によるもの)
<裁判例>
日本航空整理解雇 平成24(ネ)3123等 H26.06.03/東京高裁 平成23(ワ)1428等 H24.03.29/東京地裁 |
日本航空にて会社更生手続き中に整理解雇された機長及び副操縦士らが、解雇無効を訴えた事件 (同時期の客室乗務員の整理解雇事件についてもほぼ同じ判決) 1審支持、控訴棄却 解雇権濫用は認められない 更生計画を上回る営業利益が生じていたとしても、更生計画の要請上、事業規模に応じた人員規模とするために、人員を削減する必要性があった 特別早期退職及び希望退職を6度実施しており、組合提案のワークシェアリングが問題先送りであることを考慮すると、解雇回避努力が不十分であったとは言えない 「病気欠勤・休職等による基準」「目標人数に達しない場合の年齢基準」は、解雇対象者の人選基準としては、一定の合理性がある 所定退職金の他に、平均約350万円の特別退職金と賃金5ヶ月分の一時金を支給しており、解雇が信義則上許されないとする事情は認められない |
日本アイ・ビー・エム退職勧奨 平成21(ワ)17789等 H23.12.18/東京地裁 |
日本IBMでは、世界的な経済危機を理由とする平成21年以降の業績悪化が予想されたため、業績評価の低い者を対象として特別セカンドキャリア支援プログラムを実施したところ、対象者のうちの4名が、退職強要として損害賠償を請求した事件 支援プログラムの必要性、最大15か月分の特別支援金、再就職実現までの費用負担、勧奨対象者を業績の低い水準にある社員を中心としたこと等、いずれも合理的と認められる 退職勧奨に拒否回答したとしても、十分に検討したのかどうか、退職者支援が有効な動機付けとならない理由を確認したり、メリット・デメリットを更に具体的かつ丁寧に説明又は説得活動をすることは違法ではない 退職勧奨について、その手段・方法等が社会通念上相当な範囲を逸脱するような態様であったことを客観的に裏付ける具体的事実は認められないとして請求を却下 |
テクノプロ・エンジニアリング(旧グッドウィルグループ)整理解雇 平成21(ワ)3504 H23.01.25/横浜地裁 |
平成8年から2社に各約9年間及び3年間派遣されていた常用型派遣社員を、待機中ということで平成21年4月末に整理解雇した事件 → (控訴審でも解雇無効、詳細は追って記載します) 下記により解雇無効 ・切迫した人員削減の必要性があったとまでは認められない(過去数年間は一貫して黒字、人員削減の目標を定めていたか否かも明らかでない) ・解雇回避努力を尽くしたとは言い難い(技術社員に対する希望退職募集がない) ・対象者の人選についても合理性を認めることができない(13年間も継続的に勤務し、解雇時点でたまたま始めて待機となっていた) 従業員及び労働組合との協議・説明については明らかに相当性を欠くとはいえない 未払い賃金額については、残業代は認めず |