労働災害と安全配慮義務及び通勤災害

業務災害とは、「業務上の負傷、疾病、傷害又は死亡」です。「業務上」とは、業務と負傷、疾病等との間に、業務に内在する又は随伴する危険が現実化したと認められるような相当因果関係が必要であり、行政解釈では、「業務遂行性」と「業務起因性」の両方を要します。

業務上の負傷の判断は比較的容易ですが、疾病については業務上かどうかの判断が難しいケースがあり、それに伴い、労災の適用が争われることが少なくありません。

労災が適用となった場合は、更に事業主の安全配慮義務の問題が生じることがあります。詳細は、「労務管理ガイド」の「安全配慮義務」のページを参照下さい。



業務上の疾病


業務上の疾病の中で、脳・心臓疾患及び精神障害の業務上認定については、厚生労働省から判断基準の通達が出されていますが、どちらの基準においても、発症前概ね6ヶ月間(もし死亡・自殺したときは、発症から死亡・自殺までのものも含む)の業務の質的及び量的な負荷の過重性が、まず評価されます。(但し、認定基準は、行政の解釈基準であって裁判所を拘束するものではありません)


  <裁判例>

遺族補償給付不支給処分決定取消請求事件
平成22(行ウ)705
H25.02.28/東京地裁
長時間労働を伴う会計システムのプロジェクト業務に従事し、業務上の精神的・肉体的ストレスを受け、くも膜下出血により死亡した事件

業務起因性を肯定
死亡4ヶ月前の月平均時間外労働時間は約65時間(1ヶ月前72時間)と、脳・心臓疾患ににおける労災認定の要件とされている時間に達しないが、重要プロジェクトへの従事、深夜勤務の増加等、過重な業務に内在する危険が現実化したものと認定
川口労基署長遺族補償等不支給処分取消

平成22(行コ)124
H24.01.31/東京高裁
平成18(行ウ)183
H22.03.15/東京地裁
パン、洋菓子等の製造販売会社で恒常的時間外勤務が組み込まれた夜勤交代制勤務の物流係係長(41歳)が、喘息発作による心臓停止で単身居住していたマンション前通路で死亡した事件
業務起因性を肯定(一審と同じ)

単身赴任で夜勤交代制業務開始して1年後くらいから、基礎疾患の喘息が悪化している
死亡6ヶ月前の月平均時間外労働時間は約90時間と長く、死亡前1週間にトラブルが続いたこと、更に勤務のほぼ半分が夜勤と、業務は、質、量ともに、通常人にとっても過重なものと認められる
死亡の数日前の風邪(急性上気道炎)等、他にも喘息増悪に影響した可能性のある因子はあるが、業務と喘息死との間に相当因果関係があることを認めることができる
中央労基署長遺族補償等不支給処分取消

平成22(行コ)174
H24.01.25/東京高裁
平成19(行ウ)790
H22.04.15/東京地裁
時事通信社の記者が、糖尿病性ケトアシドーシスにより多臓器不全等に陥って急性心不全に至り死亡したのが業務に起因すると主張して、労災の遺族補償給付等を請求した事件
業務起因性は認められないとして、控訴棄却

業務起因性を否定
死亡6ヶ月前の月平均時間外労働時間は約134時間
業務内容は、困難かつ責任が重く、精神的、身体的に著しく負荷が大きいが、過重な業務が、糖尿病を発症させたとも、基礎疾患の糖尿病を増悪させ、本件疾病を発症させたともいえない
三田労基署長遺族補償不支給処分取消
平成21(行ウ)466
H23.11.10/東京地裁
臨床研究センター臨床開発部アソシエートクリニカルマネジャーが、自宅で心停止〈心臓性突然死〉にて死亡、5年後に遺族が労災適用を申請した事件
業務起因性(労災適用)を認めた
発症前6ヶ月の平均月当たり時間外労働時間数は、約60時間と推定
労働時間以外に、自宅での業務や懇親会の設定・出席等も、業務起因性を検討するにあたっての一要素として考慮されるべきである
厳しいスケジュール管理とその下での業務遂行を求められており、これに伴う精神的緊張の程度は決して小さなものではなかったと考えられる
死亡直前の3日間については、実労働時間が14時間を超えるという極めて長時間、かつ密度の濃い労働に従事していた
大阪中央労基署長遺族補償等不支給処分取消
平成21(行ウ)59
H23.10.26/大阪地裁
携帯電話等の通信機器の販売・通信ネットワーク構築の世界的メーカーの日本法人の大阪事務所長(56歳)が、接待先の居酒屋で、脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症し死亡した事件
業務起因性を認め、労災の適用を認める
関係者等との飲食は、そのほとんどの部分が業務の延長であったと推認できる
出張に伴う移動時間は、PCを携行していても、労働時間として認定はできない
24時間オンコール体制は、業務の過重性を判断するに当たっては、十分に考慮する必要がある
発症前1か月から6か月前の時間外労働時間数は、63〜81時間と推定
甲府労基署長遺族補償不支給処分取消
平成20(行ウ)11
H22.07.26/甲府地裁
点滴用留置針のチューブやカテーテル等のポリマー製チューブを製造する業務を行っていた社員が、自宅で心不全等で死亡した事件
質的・量的に過重労働であったとして、労災保険の適用を認める
生産量増のため交替制勤務を実施中
発症前1ヶ月間の時間外労働時間は68時間、この他にISO9001対応業務を自宅で約33時間(この時間も業務性を認める)
中央労基署長遺族補償等不支給処分取消

平成21(行コ)168
H22.10.13/東京高裁




平成18(行ウ)480
H21.03.25/東京地裁
リクルートの編集業務に従事していた29歳社員が、業務上の過重負荷に起因してくも膜下出血を発症して死亡したとして労災の遺族補償給付及び葬祭料の支払を求めた事件
多発性嚢胞腎に合併して脳動脈瘤が発生し、この動脈瘤が破裂したことによるもので業務起因性を否定
時間外労働時間は、45時間/月超ではあったものの、新認定基準の業務と発症との関連性が強いと評価されている時間外労働時間数を下回っているし、また休日もほぼ取得していることから、業務が量的かつ質的に特に過重なものであったと認められない
業務起因性を肯定
発症前6ヶ月間の時間外労働時間の推定、各39、67、84、26、71、50時間(但し、これ以外にも休日労働等の労働に従事していたとみられる)
多発性嚢胞腎にり患していたが、特に過重な業務の遂行によりその自然の経過を超えて急激に悪化したことによって発症したものとみるのが相当
豊橋労基署長遺族補償年金等不支給処分取消(マツヤデンキ)
平成20(行コ)22
H22.04.16/名古屋高裁



平成17(行ウ)58
H20.03.26/名古屋地裁
慢性心不全を基礎疾患(心臓機能障害3級)とする致死性不整脈発症による死亡が業務に起因するとして、労災の遺族補償年金及び葬祭料の支給を請求した事件
業務起因性を肯定
身体障害者の基礎疾患が悪化して災害が発生した場合は、業務起因性の判断基準は、当該労働者が基準となるべきである
33時間の時間外労働は、心臓機能に障害のある者にとって過重な労働であり、過重業務による疲労ないしストレスの蓄積からその自然的悪化を超えて発生したものと認める
業務起因性を否定
時間外労働時間数は33時間で、関連性が弱いとされる45時間を大きく下回ることから、量的には、疲労を蓄積させ、疲労の回復を困難とする程度の過重なものではない
立ち仕事等、質的にも過重とは認められないことから、業務との間に相当因果関係があると認めることはできない
川崎南労基署長遺族補償等不支給処分取消
平成19(行ウ)615
H22.01.18/東京地裁
マクドナルド店で、交代制で店舗運営の実務及び各種管理業務に従事していた20代社員が、急性心機能不全で突然死した事件

業務起因性を肯定
発症6ヶ月前の月平均時間外労働時間は約73時間(自宅でのパソコン作業等を含めると80時間超と考えられる)
長時間労働による疲労やイベント等によるストレス、睡眠不足が原因と推定
旭川労基署長遺族補償等不支給処分取消







平成20(行ウ)18
H21.11.12/札幌地裁
H13にNTTグループにて事業構造改革として、50歳において、60歳以降グループ会社で賃金減額の上65歳までの雇用継続か、60歳満了を選択する制度を導入
H5の定期健康診断で心電図で異常が見つかって以降、治療を継続し、社内の健康管理規程上、「要注意」の「過激な運動を伴う業務、宿泊出張はさせない。但し、やむを得ない場合は、組織の長と管理医が協議して決める」とされていた社員が、60歳満了を選択したため、法人営業に配属替えとなり、必要な技能等を習得することを目的として、出張研修期間中に、基礎疾患である冠状動脈疾患が増悪して急性心筋虚血の発症により死亡

業務起因性を肯定
研修自体は過重であったとは認められないが、宿泊を伴う長期の研修と頻繁な移動により、普段であれば生じない(特に注意して避けていた) 疲労が蓄積し、これに配属場所が決まっていないことに対する精神的ストレスが加わり、循環器にとって過大な負担が生じていたものと認められる
三鷹労基署長障害補償不支給処分取消 平成19(行ウ)608
H21.08.26/東京地裁
中古車の販売店ネッツトヨタ東京の店長が、脳梗塞を発症し、後遺障害が残ったが、その業務起因性が争われた事件
業務起因性を肯定
疾病の発症前,夏季休暇期間のある8月やゴールデンウィークのある5月を除いて、80時間前後の時間外労働
頻繁な異動、厳しいノルマ達成の責任、事務担当女性社員の勤務不良への対応等、業務の加重性が認められる
疾病の原因となった発作性心房細動が発症したのは、上記の質量共に加重な業務による疲労やストレスによるものと認定される
北大阪労基署長療養補償等不支給処分取消(マルシェ)
平成21(行コ)7
H21.08.26/大阪高裁


平成19(行ウ)11
H20.12.22/大阪地裁
居酒屋チェーン店の35歳店長が、長時間かつ深夜労働という業務上の過重負荷に起因して心筋梗塞を発症したとして労災の療養補償給付及び障害補償給付の支払を求めた事件
業務起因性を肯定
発症前1ヶ月間の時間外労働時間数は100時間を超す(休憩時間は手待ち時間と考えること等により1審より増えた)、且つ、発症前1ヶ月間の休日が僅か2日と少ない
業務起因性を否定
時間外労働時間数は、発症前1ヶ月で100時間又は発症前6ヶ月間において月当たり80時間を相当下回っているし、質的な業務上の負荷もそれほど高くなかったことから、業務が過重であったとは認められない
松本労基署長遺族補償年金等不支給処分取消

平成19(行コ)149
H20.05.22/東京高裁

平成15(行ウ)10
H19.03.30/東京地裁
セイコーエプソンで、海外現地法人の技能認定業務等に従事していた技術部員(41歳)が、出張先のホテルでくも膜下出血を発症し死亡したことについて、業務に起因するものであるとして、労災保険の遺族補償年金及び葬祭料の支給を請求をした事件
業務起因性を肯定
頻繁な海外出張による疲労が蓄積して、基礎的疾患がその自然の経過を超えて増悪した
業務起因性を否定
発病前6ヶ月間の時間外労働時間は30時間/月未満(休日労働を含む)
海外出張は多いが、定型的業務が多く、特に負担が大きいとは云えない
死亡前の飲酒が脳動脈瘤の破裂の誘因となった可能性がある


  <裁判例>

八王子労基署長(東和フードサービス)遺族補償給付不支給処分取消請求事件
平成25(行ウ)62
H27.02.25/東京地裁
バス運転手がアルコールチェックで引っ掛かかり、退職を強要され、精神障害を発病し、自殺した事件


一連の出来事を「会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした」「退職を強要された」の評価において、心理的負荷の強度が「強」に該当するとして、業務起因性を認めた
理路整然とした内容の遺書を用意したり、生命保険金の存在を意識した行動をとっていたりすることを考慮に入れたとしても、精神障害を何ら発病していなかったとは言えないとした
八王子労基署長(東和フードサービス)遺族補償給付不支給処分取消請求事件
平成24(行ウ)133
H26.09.17/東京地裁
外食チェーン店の1店舗責任者である新入女性社員が過労によるうつ病が原因で自殺


大学在学中にうつ病と診断され、通院治療していたが、心理的負荷の強度が「強」に該当する業務上の出来事が2つ、「中」と「弱」が2つずつ、全体評価は、業務による強い心理的負荷の存在を認めることができるとして、業務起因性を認めた
学生アルバイトの離職率が高く、慢性的な人手不足でシフト編成が困難であり、常時緊張を強いられていたこと等は、負荷強度「強」、一方、月平均時間外労働時間については、店舗責任者となる前後で、約15時間から約45時間と増加はしているが負荷強度は「中」
国・横浜西労基署長(ヨコハマズボルタ)遺族補償給付不支給処分取消請求事件
平成22(行ウ)354
H24.11.28/東京地裁
電気通信設備の建設及び修理等の社員が、過重労働等により精神障害を発病し、自殺した事件


業務起因性を肯定
死亡6ヶ月前の月平均時間外労働時間は約89時間(直前1ヶ月は177時間)
認定基準に照らして、「極度の長時間労働」が認められ、「特別な出来事」以外の複数の「具体的出来事」を全体評価すると、その心理的負荷の強度は、「強」となると認めることができることから、帰宅途中の交通事故後に適応障害を発症し、その後自殺したのは業務によるものと認められる
損害賠償請求事件

平成22(ワ)425
H24.10.02/甲府地裁
リハビリ施設で介護業務に従事していた社員が、過重な業務によりうつ病を発症し、自殺した事件
死亡前1ヶ月166時間、6ヶ月前の月平均時間外労働時間は約99時間
職場の配属替えによるリーダー的役割の付与、新人教育、花見行事や懇親会の準備等の負荷が重なった
安全配慮義務違反に対し、損害賠償として、逸失利益(5145万円)、慰謝料(2800万円)、葬祭料(150万円)、弁護士費用(630万円)を認めた(これから労災保険の遺族補償年金を相殺)
名古屋西労基署長遺族補償不支給処分取消事件


平成21(行ウ)89
H23.12.14/名古屋地裁
左下肢機能の障害著明の身体障害者(U種4級)が、27年間の音響機器の保守業務から、携帯電話通話サービス会社の開局立上げにコールセンター担当課長として出向し(この後うつ病を発症)、その後頻繁に配置転換され、出向から転籍となり、最後に片道通勤2時間の物流業務に異動後、自殺(56歳)した事件
労災保険の適用を認める
うつ病発症当時の時間外労働時間は、自主申告の超過勤務命令簿の50−70時間は信頼できず、約100時間と推認され、更に自宅への持帰り残業もあった
出向に伴う仕事内容の変化及び日常的な苦情受付業務は、心理的負荷が強かった
うつ病発症から自殺までの間に、約1年8か月受診のない期間があったが、寛解したのではなく、厳しい職場環境及び業務状況が何ら変わっていない以上、受診の中断をもってうつ病が寛解したものと推認することはできない
広島中央労基署長休業補償不支給処分取消事件

平成21(行ウ)20
H23.11.09/広島地裁
島根県と広島県の2つのJV(ジョイントベンチャー)のそれぞれ現場副所長、所長として両所に単身赴任していた建設会社社員が、過度の業務上の負荷を重畳的に受け、更に重大な業務上ミスがあったことから、躁うつ病,双極性感情障害を発病し、2度にわたり自殺を図った事件
業務による過重な精神的、身体的負荷により発症したものと認められ、相当因果関係の存在を肯定することができるとして業務起因性(労災適用)を認めた
双極性感情障害は、遺伝的素因(脆弱性)が強い病気であるとしても、それのみによって発病するわけではない
いなげや事件


平成19(行ウ)796
H23.03.02/東京地裁
大卒後スーパーに就職し5年目、月平均100時間を超える過重労働及び新装開店を4か月後に控えた店舗に異動すると同時に鮮魚部門のチーフに異例の抜擢されたことにより、精神障害を発病して自殺した事件
業務上の出来事が複数重なっていること、継続的な長時間労働(6ヶ月の残業時間は80時間程度)、自殺直前の労働時間が特に長かったことから、心理的負荷の総合評価を強として労災保険の適用を認める
東芝解雇事件

平成23(受)1259
H26.03.24/最高裁第二小法廷
平成20(ネ)2954
H23.02.23/東京高裁


平成16(ワ)24332
H20.04.22/東京地裁
液晶生産ライン開発担当の女性が、うつ病を発症し、休職期間満了により解雇した事件
労働者から精神的健康に関する情報がなかったことによる損害賠償の過失相殺を認めず

解雇無効(原審と同じ)
解雇無効に伴い未払い賃金等の支払いを認める(原審より減額)
・賃金は年収(時間外や賞与を除く)の1/12+遅延損害金
・慰謝料485万円(安全配慮義務違反)+遅延損害金
下記よりうつ病発症を業務上と認定し、(労基法解雇制限により)解雇は無効(会社側は、業務起因性なしとして、休職期間満了による解雇を主張)
・発症前5ヶ月間の平均法定外労働約70時間
・発症させる程度に過重な業務(「特に過重な業務」である必要はない)
解雇無効に伴い未払い賃金等の支払いを認める
・賃金は年収(時間外や賞与を含む)の1/12+遅延損害金
・慰謝料等835万円(安全配慮義務違反)+遅延損害金
メディスコーポレーション損害賠償
平成20(ワ)376
H22.10.29/前橋地裁
介護付き有料老人ホームの財務経理部長が、肉体的、心理的に負荷の高い長時間労働等をしたことによりうつ病に罹患し、自殺した事件
損害賠償
・逸失利益 5780万円(43歳、年収約600万円、ライプニッツ係数による)
・死亡による慰謝料 2600万円
・葬祭料 150万円
・損益相殺 労災保険の遺族補償年金、葬祭料 計2530万円を相殺
弁護士費用 合計590万円
新宿労基署長遺族補償等不支給処分取消
平成20(行ウ)279
H22.10.18/東京地裁
出光タンカー株式会社の経理課員(43歳)がうつ病にり患し、飛び降り自殺した事件
業務起因性を認める(労基署・審査会の処分を取消)
自殺前3ヵ月及び6ヶ月間の平均時間外労働時間は、各100、90時間
上司の叱責が心理的な負荷を生じさせる程度に過重であった
業務量は過重ではないが、業務処理の性質の変化が大きな心理的な負荷となった
メニエール病の罹患や通勤時間の長さは、6ヶ月以前からであり、原因とは認められない
神戸東労基署長遺族補償等不支給処分取消
平成20(行ウ)20
H22.09.03/神戸地裁
約10年のブランク後、川崎重工に再入社して、輸送システムの設計・見積もり等の技術を担当するグループ長(43歳)がうつ病にり患し、首吊り自殺した事件
業務起因性を肯定
乞われて再入社したことから、実績を上げる必要性を強く感じていた → 唯一の受注可能性の高い韓国案件の担当は心理的負荷「強」 → 結局破断
うつ病発症後における出来事の心理的負荷も考慮すべき
うつ病発症6ヶ月前の月平均時間外労働時間は約76時間で、死亡6ヶ月前の月平均時間外労働時間は約64時間(必ずしも過重とは認められない)
中央労基署長遺族補償等不支給処分取消


平成20(行ウ)60
H21.05.28/名古屋地裁
日本トランスシティで、プロジェクト案件や設備移設案件のスポット案件の営業及び輸送手配等の業務担当者が、ICD−10「精神および行動の障害」のF3気分(感情)障害(うつ病)を発症し、社宅で、部屋に目張りし木炭を焚いて一酸化炭素中毒により自殺した事件
業務起因性を肯定
業務は、平均的な労働者にとって量的及び質的にも過重なものであり、うつ病を発症させ、重症化させる程度の心理的負荷を与えるものであった
所定外労働時間は、自殺前2ヶ月は月100時間超、3〜6ヶ月前は約月80時間、更に、深夜や休日に海外からのメールに対応
通勤時間が往復3時間
ネット掲示板へのサービス残業の投稿で処分等を受けるのではないかと危惧していたところに、実質減員という組織変更があり、報復人事を疑いストレスとなった
渋谷労基署長遺族補償不支給処分取消

平成19(行ウ)727
H21.05.20/東京地裁
フードサービス事業を営む小田急レストランシステムで、部下による中傷ビラ配布により、30年間勤務した給食事業部から、レストラン事業部へ配置転換された料理長が、精神障害(うつ病)を発症して自殺した事件
業務起因性を肯定
中傷ビラによる事情聴取等が、「部下とのトラブル」と「顧客とのトラブル」とも一体となっており、「会社で起きた事件について責任を問われた」の心理的負荷の強度は、「U」ではなく「V」に修正される
配置転換は、実質左遷の異動であったこと等から、負荷強度は「中」
業務以外の心理的負荷や個体側要因もない
京都下労基署長遺族補償等不支給処分取消
平成18(行ウ)12
H20.10.28/京都地裁
JR西日本の駅員が、入社後約1年4ヶ月の間に計4回遅刻し、するという業務上のミスをきっかけに適応障害を発症して通勤中に駅ホームから電車に飛び込み自殺した事件
業務起因性を否定
事件前1ヶ月間の時間外労働は16時間程度
「会社にとっての重大な仕事上のミスをした」の平均的な心理的負荷の強度はVとなるが、この遅刻の心理的負荷は強度T程度と修正評価される
業務による心理的負荷が精神障害を発症させる程度に過重であるとは認められない場合には、業務以外の心理的負荷又は個体側要因のいずれかに起因するものといわざるを得ない
中央労基署長遺族補償年金不支給処分取消



平成17(行ウ)180
H20.01.17/東京地裁
大丸の販売課長が自殺したのは、遺書に筆跡の乱れもなく整っていることから、正常な思考・判断能力をもって冷静な心境で書かれたものであるとし、棚卸の棚差(約8000万円の品減り)についての責任をとる意味での覚悟の自殺、あるいは逃避をしたものとし、労災保険給付を不支給としたことに対し、業務による精神障害(うつ病エピソード)が原因として、労災保険給付を請求した事件
品減りの調査による精神的負荷が原因でうつ病エピソードを発症したものであることは明らかとして、労災保険給付を認める
自殺前6ヶ月間の時間外労働は、10時間/月未満であるが、自宅で早朝、深夜に伝票類を調査していたのは、業務命令ではなかったが、業務として認められ、80時間/月程度と推定される


  <裁判例>

労働災害補償金不支給決定処分取消
平成22(行ヒ)273
H24.02.24/最高裁 広島高裁
建設業で労災の特別加入していた代表取締役が、工事予定地の下見に赴く途中で事故により死亡した事件
建設の事業を行う事業主が、使用する労働者を個々の建設等の現場における事業にのみ従事させ、本店等を拠点とする営業等に従事させていないときは、営業等につき保険関係の成立する余地はないから、営業等の業務について、事業主が特別加入の承認を受けることはできず、営業等の業務に起因する事故に関し、保険給付を受けることはできない


通勤災害



  <裁判例>

米沢労基署長療養補償不支給処分取消

平成21(行ウ)100
H22.10.04/東京地裁
勤務先の従業員会が主催したバドミントン大会に参加後、同僚の運転する自動車に同乗して 帰宅途中、速度超過等により自動車が横転する交通事故に遭って左膝下挫滅傷、頭部挫滅創等の傷害を負った事件
大会への参加は任意であること等より、業務性を否定
大会の場所は市営体育館であり、就業の場所とは認められない
通勤の中断後に生じたものであり、通勤災害を否定
中央労基署長遺族給付等不支給処分取消

平成19(行コ)150
H20.06.25/東京高裁
事務管理部次長が、会議終了後の飲酒を伴う事務管理部主催の慰労会(参加自由)からの帰宅途中、地下鉄駅入口階段から転落して死亡した事故で、通勤災害として、療養給付、遺族給付及び葬祭給付請求した事件
通勤災害を否定
事務管理部主催であったことから、午後5時開始から7時頃までは業務とみなせるが、その後更に3時間も飲酒を続け、酩酊状態であったことから、通常の通勤に生じる危険の発現とみることはできない
(1審では、業務としての性格を有し、降雨があったため足元が滑りやすい状態であったことから、飲酒の影響で本件事故が生じたとまで認めることはできないとして通勤災害と認容)

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