退職・解雇における法規制
社員が退職する、或いは社員を解雇する場合に適用される法規制や注意事項を取り上げます。
退職
退職には、以下に示すいくつかのケースがありますが、自己都合退職は勿論、それ以外の退職でも就業規則等に従って行われるものであれば特に問題が生じることはありません。
- 合意退職(自己都合退職): 社員から辞めることを願い出て、会社が承諾する
- 期間の定めのない雇用契約では、2週間前に申し出れば退職できます(民法627条)
- 契約期間満了: 予め定まっていた契約期間の満了
- 休職期間満了: 休職期間が満了しても復職できないとき
- 復職の可否は産業医等の意見を聞いて会社が判断します(主治医より産業医の意見が優先されます)
- 行方不明期間経過による自動退職: 行方不明となり就業規則で定める期間を経過したとき
- 定年退職: 就業規則で定める定年年齢に達したとき
但し、退職勧奨(いわゆる肩たたき)については、社員が承諾するかしないかは、社員の自由であり、執拗で、繰り返し行われる半強制的な退職の勧めは違法(不法行為)となりますので注意が必要です。
解雇制限(解雇の禁止)
以下に示す期間や理由による解雇は禁止されています。
- 労働基準法
- 3条
国籍、性別、信条、社会的身分を理由とする解雇(差別的取扱いを禁止=解雇の禁止) - 19条
@業務上の負傷又は疾病による療養のための休業期間とその後30日間
A産前産後休業期間とその後30日間(休業していなければ解雇制限期間とはならない)- 使用者が打切補償を支払う場合、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合(所轄労働基準監督署長の認定が必要)は、解雇できる場合がある
- 業務上の災害で療養開始後3年経過した日において、労災保険の傷病補償年金を受けているとき、又はその日以後同年金を受けることになったときは、打切補償を支払ったものとみなされる
(業務上災害の場合、使用者が労基法の療養補償をしていれば、上述の通り、打切り補償を支払うことで解雇できますが、殆どのケースで使用者が直接療養補償をすることはなく、労災給付を受けていると思われます。そうすると、労災の傷病補償年金が支給されれば問題ないのですが、(傷病補償年金の支給決定がなされず)療養補償給付が続いている場合に、打切補償を支払うことで解雇できるかどうかが問題となります。裁判(専修大学事件)では、最高裁は解雇できるとしました。) - 業務上の傷病により治療中でも、休業していなければ解雇制限の規定は適用されない
- 通勤災害による休業、育児休業、介護休業は解雇制限期間とはならない
- 契約期間の満了は、解雇ではないので、原則として解雇制限の問題はない
- 解雇制限期間中に、労働者の責めに帰すべき重大な過失等が判明しても、解雇できない
- 38条の4
企画業務型裁量労働制の対象業務に就けることに同意しないことを理由とする解雇 - 104条
労基署等、監督機関への申告を理由とする解雇 - 規則6条の2
労使協定の過半数代表者になる、なろうとしたこと、正当な活動をしたことを理由とする解雇(不利益な取扱いを禁止=解雇の禁止) - 規則24条の2の4
企画業務型裁量労働制の労使委員会の労働者委員になる、なろうとしたこと、正当な活動をしたことを理由とする解雇(不利益な取扱いを禁止=解雇の禁止)
- 労働安全衛生法
- 97条
監督機関への申告を理由とする解雇
- 労働組合法
- 7条
不当労働行為(組合員である、組合に加入、組合を結成、組合の正当な活動をしたこと)となる解雇
- 男女雇用機会均等法
- 6条
女性であることを理由とする解雇(差別的取扱いを禁止=解雇の禁止) - 9条
婚姻、妊娠、出産、産前産後休業等の取得・請求、妊娠・出産に起因する能率低下・労働不能を理由とする解雇
- 育児・介護休業法
- 10条
育児休業の申出、取得を理由とする解雇 - 16条
介護休業の申出、取得を理由とする解雇
- 個別労働紛争解決促進法
- 4条
労働局長に援助を求めたことを理由とする解雇 - 5条
紛争調整委員会にあっせんを申請したことを理由とする解雇
- パート労働法
- 21条
労働局長に援助を求めたこと、均衡待遇調停会議に調停を申請したことを理由とする解雇
- 労働者派遣法
- 33条の4
過半数代表者になる、なろうとしたこと、正当な活動をしたことを理由とする解雇(不利益な取扱いを禁止=解雇の禁止)
- 雇用保険法
- 73条
被保険者となったこと、被保険者でなくなったことの厚生労働大臣への確認の請求をしたことを理由とする解雇
- 公益通報者保護法
- 3条
公益通報を理由とする解雇
解雇におけるその他の法規制
- 労働契約法
- 16条
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、解雇権の濫用として、無効となる
(合理的かどうか、社会通念上相当かどうかで多くの裁判例があります)
- 労働基準法
- 20条
解雇する場合は、少くとも30日前にその予告をしなければならない(或いは、予告手当を支払う)
(労基署の除外認定を受けたとき、及び一部適用除外の社員を除く) - 22条
請求があったときは、退職の事由(解雇の場合は、その理由を含む)について証明書を交付しなければならない
解雇の種類
解雇には、以下に示す4つのケースがあります。
- 整理解雇: 経営難、不況による業務の縮小など人員整理の必要性に基づく解雇
- 普通解雇: 健康不良、勤怠不良、職務怠慢など、能力、適性の欠如による解雇
- 懲戒解雇: 社員が就業規則で定める懲戒解雇事由に該当する重大な違反を犯したときの懲戒処分による解雇
- 諭旨解雇: 本人の反省、情状により懲戒解雇を軽減した処分による解雇(諭旨退職)
普通解雇
整理解雇や懲戒解雇以外の通常の解雇理由としては、次のようなことが挙げられます。
- 能力、適性
- 勤怠、非違行為
- 傷病
こうした理由があるとしても、解雇においては、次の点で注意が必要です。
- 上述の解雇制限に該当しないことを確認する
- 就業規則に、こうした理由によって解雇できる旨規定しておく
- 裁判例では、就業規則に規定していない理由によって解雇するのは認められなかったケースもあるようですが、「その他前各号に準ずる場合」といった包括的な定めを置いておくことにより幅広く適用されることになります
- (上記労働契約法16条の)解雇権濫用とならないよう注意する
- 就業規則の解雇事由に該当するだけでなく、更に、「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」が必要ということです
- 即ち、「違反の重大性や頻度」、「労働者側の事情の考慮」や「教育訓練、配置転換等の手段で解雇を回避する努力を使用者側がしたか」といったことを考慮する必要があります
整理解雇
整理解雇の有効性は、次の4つの観点から判断されています。
- 経営上、人員整理の必要性がある
(最近では、企業としては黒字でも不採算部門の廃止等、経営判断上必要であれば認められるようになってきています) - 整理解雇を避ける努力をした
- 解雇対象者の選定が妥当である
- 労働組合、従業員と協議を尽くした
一般には、整理解雇の前に、次のような解雇回避努力を行うことが求められます(必ずしも全てが求められるという訳ではなく、ケースバイケースで判断されます)
- 広告費・交際費等の経費削減
- 時間外労働・休日労働の削減
- 新規採用の抑制
- 余剰人員の配転や出向、転籍
- 役員報酬のカット・不支給
- 管理職手当のカット・不支給
- 従業員の賞与のカット・不支給
- ベースアップ、定期昇給の抑制・停止
- 基本給の引き下げ
- 労働時間の短縮(一時帰休)
- パートタイマーや期間雇用者の雇止め、解雇、採用内定の取消
- 希望退職者の募集
懲戒解雇
懲戒解雇については、就業規則等に懲戒解雇の事由が明示されていることが求められます。(つまり、就業規則等において規定されている事由に該当する場合にのみ懲戒解雇でき、就業規則等に記載されていなければ懲戒解雇できないことになります(限定列挙説))。
懲戒処分が法的に有効とされるためには、 以下の全てが満たされる必要があるとされています。
- 就業規則の根拠規定があること
- 懲戒事由に該当すること(合理性)
- 社会通念上の相当性を有すること(相当性)
さらに以下の要件を満たすことも必要です。
- 新たに設けた懲戒規定をそれ以前の行為に適用してはならない
- 過去に懲戒の対象となった行為について重ねて処分を行ってはならない
- 同程度の違反に対する処分は同等でなければならない
- 本人に弁明の機会与えなければならない
尚、懲戒解雇の場合に、退職金の減額や不支給とする取扱いをすることが一般的であり、そうした就業規則規定は合理的であるとされていますが、退職金には賃金後払い的性格もあることから、実際には、就業規則にそうした規定があってもこれを限定的に解釈し、「永年の勤続の功労を抹消させてしまうほどの背信行為がない限り、退職金の不支給は許されない」として、退職金の支払いを認めた裁判例もあり、ケースにより判断が異なります。