人事労務管理(人事労務マネジメントシステム)
人事労務管理とは、企業の経営資源のヒト(労働力)・モノ(生産手段:設備や原材料など)・カネ(資本)の3要素のうち、ヒト(労働力)を対象とする管理活動であり、企業を円滑に運営し、そして労働力を効率的に利用する(労働者の能力を最大限に引き出す)ために必要となります。
即ち、人事労務管理は、ヒト(労働力)の面から経営方針や経営戦略を具現化するためのもので、次の要素から成ります。
@雇用管理: 人材を確保し(外部調達と内部調達)、仕事に配置します
A労働(就業)条件管理: 人材が能力を発揮できる労働(就業)条件を整備します
B報酬管理: 労働に対する報酬を決め、社員の労働意欲の維持・向上を図ります
C人事評価の管理: 社員の労働、能力、貢献を評価します
D労使関係管理: 労働組合との集団的労使関係の管理と、個別的労使関係の管理をします
これらの人事労務管理制度は、一度構築すれば後は運用、実施するだけ、という訳にはいきません。事業の規模や内容、そして外部環境の変化、或いは法令の改正等に伴い、常に見直し、改善をしていくことが求められます。その仕組みが、人事労務マネジメントシステムです
オフィスおかべでは、安全衛生は勿論、人事労務管理にもマネジメントシステムを導入することをお勧めしていますが、まず、マネジメントシステムについてもう少し説明します。
そして、マネジメントシステム導入により、P(プラン)−D(ドゥ)−C(チェック)−A(アクション)のマネジメントサイクルを継続的に回すことで人事労務管理のパフォーマンスを向上していくわけですが、PDCAサイクルの実践の簡単な例を示します。
改善効果が得られたら(或いは、得られそうであれば)、人事制度、就業規則或いは社内ルールや慣行等何らかの形で制度化していくのですが、一旦制度化すると、後で社員に不利益な方向には変更が難しいものがありますので、十分な注意が必要です。
例えば、「挨拶を励行しよう」ということであれば、それを撤回しても社員に特に不利益は生じないので構いませんが、(極端な例ですが)「退職金支給規程」を廃止するのは容易ではありません。
尚、次ページ以降に人事労務マネジメントシステム導入において参考となるデータや資料をご紹介していきます。
労働安全衛生マネジメントシステムについては、労働安全衛生管理を参照下さい。)
マネジメントシステムとは
ISO9000によると、マネジメントシステムとは、”方針及び目標を定め、その目標を達成するためのシステム”と定義されています。
また、労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針(平成11年4月30日)(告示第53号)の第3条に「労働安全衛生マネジメントシステム」の定義が次のようになされています。
事業場において、次に掲げる事項を体系的かつ継続的に実施する安全衛生管理に係る一連の自主的活動に関する仕組みであって、生産管理等事業実施に係る管理と一体となって運用されるものをいう。
・安全衛生方針の表明
・危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置
・安全衛生目標の設定
・安全衛生計画の作成、実施、評価及び改善
ここで、「労働安全衛生」を「品質」や「環境」と置き換えれば、上記2番目の項目を除き、ほぼそれぞれのマネジメントシステムの定義となるでしょう。
人事労務マネジメントシステムも同じで、”人事労務管理の方針や目標を定め、その目標を達成するために計画を作成し、実施し、評価し、そして改善すること”となります。
しかし、組織が立てた方針・目標を、どのようなやり方で達成するのか、誰がどのような役割を担うのか、目標が達成できそうにない場合はどのようにして挽回するのか、といったこと(即ちPDCAの実施)は、ごく一般的に殆どの組織で実施されていることです。ただ、きちんと管理されているのかどうかです。
つまり、マネジメントシステムは、決して目新しいものでもなく、これまでやってきたPDCAをきちんとシステム化して管理しようという、管理技術の向上のことと云えます。
何故システム化しなければならないのでしょうか。目的は目標の達成であり、システム化ではありません。優秀な社員がいれば、特にシステムがなくても目標達成はできるかもしれません。しかし、長続きするでしょうか。例えば、その社員がいなくなったときにどうなるのでしょうか。そのときでも、少なくても現状を維持し、更にできるだけ継続的に改善を図るためにシステムが有用なのです。
マネジメントシステム(PDCAサイクル)の実践
それでは、マネジメントシステムを実践してみましょう。(以下においては、初めてマネジメントシステムを実施する想定で記載しています。)
- 人事労務管理方針
- まず、会社の経営方針や経営戦略から人事労務管理方針を明確にします
- 人事労務管理方針というと少し大袈裟ですが、要は、人事労務管理において、どういった会社、又は職場を目指すのかということです、例えば、社員の満足度を高めることを経営方針の1つにしていることから、「社員が働きやすい職場を作る」ことを人事労務管理方針(の1つ)とする、といった具合です
- 人事労務管理目標
- 次に、上記方針に従って、達成すべき人事労務管理目標を定めます
- 目標は、長期的なものや短期的なもの等、自由に設定できますし、状況により見直す必要もあります
- 目標は、数値で表した方が分かり易くて良いのですが、数値化に拘って、大切な目標を諦めるというようなことがあっては本末転倒です
- 「社員が働きやすい職場を作る」という人事労務管理方針における目標としては多くのことが考えられますが、例えば、まず社員の意見を聴くために、「社員と定期的にコミュニケーションを行う」とか、社員を公平・公正に扱うために人事労務管理のブラックボックスをなくそうと、「人事・賃金制度を含め社内規程を整備し、全て社員にオープンにする」といった目標も考えられます
- 人事労務管理のパフォーマンス指標をいくつかリストアップしていますので、目標設定の参考として下さい
⇒ 人事労務管理パフォーマンス指標
- アクションプラン(P)
- 目標が決まれば、次に、どうやってそれを達成するのか、アクションプランを作成します
- 例えば、「社員と定期的にコミュニケーションを行う」のであれば、「賞与時に社員と個人面談をする」というアクションを設けます
- また、「人事・賃金制度を含め社内規程を全て社員にオープンにする」のであれば、具体的に社内規定を整備し、説明するスケジュールを立てます
- 目標達成をどの時点で評価するのかを、プランに記載します
- アクションプランは、社員に公開します
- アクションの実行(D)
- 計画に従ってアクションを実行します
- アクションの評価(C)
- 予め決めておいた時期にアクションの結果について評価し、結果を公表します
- 見直し・改善(A)
- 結果の評価に基づき、目標や計画の見直しや新規設定へとサイクルを継続します
- 必要に応じて、社内規程類の作成や見直しを行います
- マンネリ化対策
- PDCAサイクルは、当初はそれなりの効果が得られてうまくいくのですが、そのうちに形式化して現状維持のシステムになってしまうことが良くあります
- 同じメンバーで実行していれば、どこかで頭打ちの状態になってくるのは、ある意味仕方ありません
- このようなときは、経営者が現状維持で良いと思えば継続し(現状維持で有れば、追加のコストは殆ど不要だと思います)、不満であれば、例えば第三者を加えて視点を変えてみるのも1つの方法です