残業について
時間外労働や休日労働(ここでは、これらをまとめて「残業」という)の管理については、困っている経営者や管理者の方が多いのではないかと思います。
ここでは、残業について少し考えてみます。
残業の原因分析
残業の対策(削減)をするには、当然ながら残業の発生原因を把握する必要があります。発生原因として、大きく次の3つに分類します。
- 急な注文・急な顧客対応やトラブル処理といった、予定外の仕事への対応
- 不要不急な仕事(ダラダラ残業、付合い残業、自己研鑽、等々)
- 労働力と仕事量のバランス(元々仕事量が多い)
1番目のタイプの残業は、労務管理に起因するものとは言えず、職場毎に対策も異なりますので、ここでは取り扱いません。(一般に対策は容易ではありません)
2番目の残業の中には、能力アップのためにいろいろと経験したいというようなものも含まれますし、付合い残業で不急な仕事をしても、次に仕事が控えているなら、必ずしもムダとは言えないかもしれませんが、一般的にはムダと捉えて、経費削減の観点からは、真っ先に取り上げられるものの1つと思います。
このタイプの残業を減らすには、残業を許可制にすることが有効とされています。管理職が厳正にチェックすれば、相当程度削減できるものと思われます。
3番目の残業は、元々残業なしではできない仕事量があるというものです。逆に、労働力に余裕があれば、他の要因による残業もある程度カバーされます。この労働力と仕事量の関係を知ることは、労務管理上は重要なことですので、後述の検討を参照下さい。
経営者や管理職の方が、2番目の残業が多いと感じていれば、速やかに「残業許可制」を導入することをお勧めします。更に、パフォーマンス改善を目指すのであれば(当然そうだと思いますが)、残業原因をもう少し詳しく分析し、各々に対策を講じる必要があります。
従業員数と残業時間(労働力と仕事量のバランス)
仕事量と労働力のバランスを考えるとき、経営面からは、当然ながら人件費の検討が必要です。(勿論、効率化により仕事量そのものを減らすことやワークライフバランスの問題等有りますが、ここでは考えません。)その際、忘れてはならないことに休暇の問題があります。
例えば、次のような職場があるとします。
- 年間休日数: 110日(年間所定労働日数=255日)
- 従業員数: 12人(全員同じ職務とする)
- 有給休暇日数: 全員が20日間
12人全員が有給休暇を100%消化すると、(12x20)=240日分となり、この他に年休以外の休暇や欠勤等が全体で15日あるとすると、計255日となり、年間所定労働日数と同じになり、計算上は、毎日誰か1人が休んでいて、11人で仕事をしているということになります。
毎日12人分の仕事があるとすると、職場全体で、毎日(1人分の仕事量に相当する)8時間の残業をするか、残業をしないためにはもう1人従業員を増やさなければなりません。(厳密に言えば、増員したときは再計算する必要がありますが、ここでは無視します)
そこで、従業員数12人(ケース1)と13人(ケース2)の場合の賃金比較をしてみましょう。
即ち、職場全体における毎日8時間(年間(255x8)=2,040時間)の残業代と1人分の年間賃金とを比較すれば、人件費面からはどちらがメリットがあるか分かります。(短時間勤務者を雇用して残業時間を減らすことも考えられますが、ここでは考慮しません)
簡単のため、上述の職場の全従業員の賃金を次の通りとします。
- 基本給: 22.1万円(その他手当等なし)
- 賞与: 年間基本給の4ヶ月分
1ヶ月平均所定労働時間及びそれに基づく時間給は次の通りです。
- 1ヶ月平均所定労働時間: 255日/年x8時間/日÷12ヶ月=170時間/月
- 時間給: 22.1万円÷170時間=1,300円
これから、
- ケース1における残業代: 1,300円x1.25x2,040時間/年=331.5万円/年
- ケース2における1人分の賃金: 22.1万円/月x(12+4)ヶ月=353.6万円/年
この例では、増員せずに残業でカバーする方が人件費は少なくて済みます。労働保険料や社会保険料の負担を考慮すると更に差が生じます。
雇用形態や賃金構成によって、どちらの選択が人件費的に有利になるかは変わる可能性がありますので、ある程度正確に計算する必要があります。一般的には、正社員の場合は、割増賃金の算定基礎に入らない手当が支給されたり、賞与が多く、また退職金もあることから従業員数を増やす方が人件費が高くなり、非正規社員の場合は、増員する方がコスト的には有利なようです。
有給休暇の平均消化率は50%を切っていますが、有休消化率の低い職場では、残業でカバーする方がコスト的に有利となります。
ケース2の増員した方が、労働力確保の面からはフレキシビリティが増しますが、実際には毎日交代で従業員が休暇を取得するわけではなく、複数の従業員が休暇を取れば残業が発生しますし、誰も休まなければ労働力が余ることになります。また、仕事量が減ると人員削減(解雇)の問題が発生する心配があります。
いずれのケースを選択するは別にして、各々のケースでのこの職場の残業時間に関する管理目標は次のようになる筈です。(例外的な措置への対応を除きます)
- ケース1: 170時間/月
- ケース2: ゼロ
逆に11人に減員して、残業を増やすことも考えられます。ケース1において1人当たりの平均残業時間は、14.2時間/月なので、他の残業要因と合わせて長時間残業として問題となるといわれている時間以内であれば、そうした選択も有り得ます。
勿論、上記は非常に単純化したものであり、実務上は種々検討を加える必要があることは言うまでもありません。(ただ、いろんな要素が関係しており複雑過ぎるため、あまり精度を期待するのはどうかと思います)