健康診断
労働衛生の3管理の一つである「健康管理」の重要な手段として健康診断がありますが、ここでは健康診断に関する法規制を中心に説明します。
安衛法66条には、@一般健康診断、とA特殊健康診断についての規定があります。また、じん肺法には、じん肺健康診断の規定が設けられています。
尚、協会けんぽでは、「高齢者の医療の確保に関する法律」により義務化されている40歳以上の者に対する生活習慣病に関する特定健康診査(メタボ健診)と更に充実した生活習慣病予防健診とを実施しています。定期健康診断の費用は会社負担ですが、生活習慣病予防検診の一般健診は定期健康診断に代用でき、しかも協会けんぽから費用の補助が受けられますので、これら制度を有効に活用すべきと思います。(詳細は、協会けんぽ、或いは加入している健康保険組合に相談して下さい。)
一般健康診断
一般健康診断としては、次のものがあります。
- 雇入れ時の健康診断(安衛則43条)
- 常時使用する社員を雇用したときに実施します
- 「常時使用する社員」には、次の社員を含みます
@ 期間の定めのない労働契約により使用される者(契約の更新により1年以上使用されている者、又は1年以上使用されることが予定されている者を含みます)
A 1週間の労働時間数が同種の業務に従事する通常の社員の所定労働時間数の4分の3以上のパート社員 - 下記特定業務に従事するために雇用される者は、6ヶ月以上の予定であれば対象となります
- 「常時使用する社員」には、次の社員を含みます
- 健康診断項目は、安衛則43条に規定されています(省略)が、3ヶ月以内に既に実施した診断項目があれば、その結果を書面で提出してもらうことで、雇用時の診断を省略することができます
- 定期健康診断(安衛則44条)
- 常時使用する社員に対し、毎年1回実施します
- 健康診断項目は、安衛則44条に規定されています(省略)が、雇入れ時の診断項目とほぼ同じです、また、医師の判断により、一部の項目を省略することもあります
- 特定業務従事者の健康診断(安衛則45条)
- 次の特定業務に新たに従事することになった社員に対し、或いは次の業務に常時従事している社員について6ヶ月毎に1回実施します
- 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
- 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
- ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
- 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
- 異常気圧下における業務
- さく岩機、鋲打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
- 重量物の取扱い等重激な業務
- ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
- 坑内における業務
- 深夜業を含む業務
- 水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
- 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
- 病原体によって汚染のおそれが著しい業務
- その他厚生労働大臣が定める業務(・・・制定されていません)
- 健康診断項目は、上記定期健康診断と同じですが、胸部エックス線検査と喀痰検査は1年に1回で良いとされています、また、医師の判断で一部の項目について省略できます
- 海外派遣労働者の健康診断(安衛則45条の2)
- 外国に6ヶ月以上派遣する場合、或いは6ヶ月以上外国に派遣されていた社員が帰国したとき(一時帰国を除く)実施します
- 健康診断項目は、定期健康診断の項目とその他に医師が必要と認めた項目です
- 結核健康診断(安衛則46条)
- 上記の健康診断の結果、結核の発病の恐れがあると診断された社員に対し、約6カ月後に実施します
- 診断項目は、胸部エックス線検査と喀痰検査等です
- 給食従業員の検便(安衛則47条)
- 社員食堂や炊事場での給食業務に従事する社員に対し、雇入れ時又は配置替えの際に実施します
特殊健康診断
特殊健康診断としては、次のものがあります。
- 有害業務に従事する社員に対する特別な項目についての医師による健康診断(安衛法66条)
- 次の業務に常時従事する社員に対し、雇入れ時又は配置替えの際及びその後定期的に実施します、尚、該当業務、診断項目や頻度については、各法令を参照下さい
- 高圧室内業務(高圧則38条)
- 放射線業務(電離則56条)
- 特定化学物質を製造し、若しくは取扱う業務(特化則39条)
- 石綿等を製造し、若しくは取扱う業務(石綿則40条)
- 鉛業務(鉛則53条)
- 四アルキル鉛等業務(四アルキル鉛則22条)
- 屋内作業場又はタンク、船倉若しくは坑の内部等において有機溶剤を製造し、又は取扱う業務(有機則29条)
- 有害業務に従事したことのある社員に対する健康診断(安衛法66条)
- 特定の特定化学物質等の製造や取扱いの業務に従事したことのある社員に対し実施します、尚、該当業務、診断項目や頻度については、法令を参照下さい
- 有害業務に従事する社員に対する歯科医師による健康診断(安衛法66条)
- 塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、フッ化水素、黄リン等歯又はその支持組織に有害な物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所の業務に常時従事する社員に対し、雇入れ時又は配置替えの際及びその後6ヶ月毎に実施します
健康診断に関するその他の法規制
- 健康診断の受診義務
- 社員(労働者)は、上記の一般健康診断及び特殊健康診断を受けなければなりません(受診を拒否すれば、懲戒処分の対象となり得ます)
- 自ら上記の健康診断を受診し、結果を証明する書面を提出すれば、事業者の行う健康診断を受けなくても構いません
- 法定の検診項目以外の検診であっても、就業規則に受診義務が定められており、その内容が合理的であれば、受診しなければなりません
- 過去6ヶ月間に24回以上深夜業に従事した社員は、自ら健康診断を受診し、結果を証明する書面を提出することができます
- 自分の健康に不安を感じて、次回の健康診断まで待てないような場合を想定したものです
- 健康診断の結果
- 健康診断結果は、社員に通知しなければなりません
- 事業者は、健康診断結果を健康診断個人票を作成し、記録しておかなければなりません
- 保存期間は原則5年です(ベンゼン等一定の有害業務に関する社員については30年、石綿に関しては業務に従事しなくなってから40年)
- 事業者は、異常所見がある社員について、医師又は歯科医師の意見を聴き、健康診断個人票に記載すると共に、必要に応じて、適切な措置を講じなければなりません
- 産業医のいる事業場では、産業医から意見を聴くことが望まれます(産業医がいないときは、地域産業保健センターを利用することもできます)
- 適切な措置としては次のようなものがあります
就業場所の変更/作業の転換/労働時間の短縮/深夜業の回数の減少/作業環境測定の実施/施設・設備の設置や整備/衛生委員会での協議、等 - 上記措置の結果として休業や労働時間の短縮をした場合は、就業規則等に定めがない限り、賃金や休業手当を支払う必要はありません
(但し、現在の業務が無理でも、例えば、現場から事務へといった配置転換により労務の提供ができるようなときに、休業や労働時間短縮の措置を取ると、賃金や休業手当の支払いが必要となるかもしれません)
- 事業者は、一般健康診断結果から、特に健康の保持に努める必要があると認められる場合は、保健指導を行うように努めなければなりません
- 一般健康診断で異常所見があっても、事業者には(結核健康診断を除き)再検査や精密検査の実施義務はありませんが、受診するよう勧奨することが適当であるとされています
- 有機溶剤、鉛、特化物製造・取扱作業及び高圧作業等に関する特殊健康診断については、その実施が事業者に義務付けられています(「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」)
- 事業者は、次に該当する場合は、健康診断結果報告書を労基署に提出しなければなりません
- 定期健康診断と特定業務健康診断: 常時50人以上の社員を使用する事業者
- 歯科医師による特殊健康診断: 常時50人以上の社員を使用する事業者
- その他の特殊健康診断: 全ての事業者
- 厚生労働省発行の「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」を参照して下さい
- 二次健康診断
- 一般健康診断で、業務上の事由による脳血管疾患及び心臓疾患の発生に係る身体の状態に関する検査である、@血圧、A血中脂質、B血糖、CBMIのいずれにも異常の所見があり、社員が請求した場合に、労災保険法に基づいて実施されます
- 健康診断の費用と時間の取扱い
- 一般健康診断及び特殊健康診断の費用は事業者が負担します(社員が個人的に受診した場合を除きます)
- 派遣労働者の場合、一般健康診断は派遣元、特殊健康診断は派遣先が費用負担します
- 一般健康診断の時間は、必ずしも事業者が負担する必要はありません(労使協議事項)が、厚生労働省としては、事業者負担が望ましいとしています
- 特殊健康診断に要する時間は、事業者負担です(即ち、所定労働時間内に実施するか、又は時間外に実施したときは割増賃金の支払いが必要となります)
- じん肺健康診断
- 新たに常時粉じん作業に従事する社員に対し、及びその後定期的に実施します、尚、該当業務、診断項目や頻度については、じん肺法を参照下さい
- VDT健康診断
- 新たにVDT作業に従事する社員に対し、及びその後定期的に実施します、尚、該当業務、診断項目や頻度については、通達「VDT作業のための労働衛生上の指針について」(S60.12.20)(基発第705号)を参照下さい
健康管理に関するその他の法規制
- 面接指導
- 時間外及び休日労働時間が100時間/月(平成31年4月から80時間/月)を超え、疲労の蓄積が認められるとして社員が希望するときは、医師による面接指導を行わなければなりません
- 80時間/月を超えた場合も、面接指導を行うよう努める義務があります
- 平成31年4月から、研究開発業務に従事する社員においては、100時間/月を超えた場合、疲労の蓄積や本人の申立に関係なく面接指導を行うことが義務づけられました
- 面接指導の費用は事業者が負担します
- 面接指導の時間は、必ずしも事業者が負担する必要はありません(労使協議事項)が、厚生労働省としては、事業者負担が望ましいとしています
- 健康診断及び面接指導に関する秘密の保持
- 安衛法104条にこれら情報についての秘密保持規定があります
- 個人情報保護法に関連して、社員の健康情報の取扱いについて、通達「雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項について」(H16.12.29)(基発第1029009号)が出されています
- この通達の中で、事業者は、HIV感染症やB型肝炎等の職場において感染したり、蔓延したりする可能性が低い感染症に関する情報や、色覚検査等の遺伝情報については、職業上の特別な必要性がある場合を除き、社員から取得すべきでない、とされています
- 健康管理手帳
- 粉じん、石綿、特定の特定化学物質等の製造や取扱いといった、がんその他の重度の健康障害を生ずる恐れのある業務に従事したことのある社員のうち、一定の者に対し健康管理手帳を交付し、政府の費用負担にて離職後も健康診断を実施します