長時間労働(過重労働)に関する法規制
法定労働時間は、労働基準法において、原則@40時間/週、A8時間/日と規定されていること、しかし、いくつかの特例があることを「労働時間・休憩・休日に関する法規制」ページに記載しました。
所謂「36協定」を締結することで、時間外労働や休日労働が可能となる(「36協定」が適用されない労働者もいます)のですが、一体どのくらいまで時間外労働をする(させる)ことができるのか、更に、そうした長時間労働における労働者の健康保持に関する法規制について説明します。
2018年7月に公布された所謂「働き方改革法」により、時間外労働の上限規制は次の通り少し厳しくなりました。(建設、運送、医師、研究開発等、一部事業・業務を除きます。)
・時間外労働:720時間/年
・時間外労働+休日労働:100時間/月未満、且つ、2〜6ヶ月平均80時間/月以内
労働者の健康被害が長時間労働に起因すると判定された場合は、安全配慮義務違反として大きなペナルティが課せられる場合があります。 ⇒ こちら(安全配慮義務)を参照下さい。
(時間外労働に対する割増賃金については、「残業時間と残業代計算」ページを参照下さい)
36協定
労働基準法では、法定労働時間を超えて労働させる場合、或いは法定休日に労働させるときは、労使で36協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることで、協定で締結した範囲内で、時間外労働及び休日労働をさせることができます。
(36協定については、 ⇒ こちら(労使協定と過半数代表者)を参照下さい。)
- 時間外労働の限度時間
- 「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平成10年12月28日 労働省告示第154号)において、時間外労働(法定休日における休日労働は含みません)の限度時間の基準は、原則として次のように定められています
- 15時間/週
- 45時間/月
- 360時間/年
- 特別条項
- 36協定に、「特別条項」を設けることで、上記限度時間の時間外労働を更に延長することができます
- 「特別条項」による延長時間は、その適用回数は臨時的なものとして1年の半分以下とされていますが、延長できる時間の制限はありません。(後述するように、過重労働の問題があるので、労基署で指摘を受けるとは思いますが、法的には月100時間を超えるような長時間の延長時間を定めることも可能であるということです)
上述の通り、これら法規制は中小企業に適用されるものです。大企業においては2019年4月からより厳しい規制となっています。
労働安全衛生法による面接指導
労働安全衛生法では、脳・心臓疾患や精神疾患等の発症を予防するために、長時間労働者に医師による面接指導を行うことが定められています。(安衛法66条の8)
- 1月当たりの時間外及び休日労働時間の合計が100時間(2019年4月から80時間)を超え、且つ、疲労の蓄積が認められるときは、労働者の申出を受けて、面接指導を行うことが、事業者に義務付けられています
- 上記に準ずる場合においても、面接指導を行うよう、努力義務が課されています
2019年4月から、研究開発業務に対しては、時間外と休日労働時間の合計が100時間を超えると、疲労の蓄積の有無や労働者の申出の有無に関係なく、面接指導を行わなければならなくなります。
労災認定基準と労働時間
労災認定基準としては、次の2つの通達がありますが、その中の長時間労働に関する部分を抜き出しています。
長時間労働が、こうした疾患の発症原因とされると、場合によっては、安全配慮義務違反として損害賠償を請求されることもあり得ますので、そうしたことが起こらないよう十分な注意が必要です。
- 脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準(平成13年通達)
- 認定要件
次のいずれかの業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する疾病として取り扱うことになります(詳細は、通達を参照下さい)- 発症直前に、「異常な出来事」に遭遇したこと
- 発症に近接した時期において、「短期間の過重業務」に就労したこと
- 発症前の長期間にわたって、「長期間の過重業務」に就労したこと
- 上記認定要件の「過重負荷」について、労働時間面からみた基準は以下の通りです
- 発症前1ヶ月〜6ヶ月間にわたって、おおむね45時間/月を超える時間外+休日労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、45時間/月を超えて時間外+休日労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できる
- 発症前1ヶ月間におおむね100時間又は発症前2ヶ月〜6ヶ月間にわたって、おおむね80時間/月を超える時間外+休日労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる
- 心理的負荷による精神障害の認定基準(平成23年通達)
- 認定要件
次の全ての要件を満たす対象疾病は、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱うことになります(詳細は、通達を参照下さい)- 対象疾病を発病している
- 対象疾病の発病前おおむね6ヶ月間に、業務による強い心理的負荷が認められる
- 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められない
- 次のような極度の長時間労働は、「特別な出来事」として、そのことだけで上記認定要件の2番目の「強い心理的負荷」に該当します
- 発病直前の1ヶ月におおむね160時間を超える時間外+休日労働を行った
- 発病直前3週間におおむね120時間以上の時間外+休日労働を行った
- 「特別な出来事」ではありませんが、次の場合も「強い心理的負荷」に該当します
- 発病直前2ヶ月間に、おおむね120時間/月以上の時間外+休日労働を行った
- 発病直前3ヶ月間に、おおむね100時間/月以上の時間外+休日労働を行った
- 上記以外の場合でも、100時間/月程度の時間外+休日労働を行った場合には、他の出来事と併せて、「心理的負荷」の強度を修正する要素となります
働き方改革法により、時間外+休日労働時間の上限が100時間に規制されたことから、労災認定基準についても見直しがされるかもしれません。。