定額残業代
毎月の給料の中に一定時間分の残業代が含まれているという運用をしているケースが少なくありません。
ここでは、こうした所謂「定額残業代」について考えてみます。
定額残業代方式の可否
次の要件を満たしていれば、定額残業代方式を採用することは問題ありません。
- 賃金(基本給や手当)に含まれる定額残業代を明確にすること(年俸制でも同じです)
- 例えば、「基本給は、毎月XX時間分の時間外手当を含む」或いは、「○○手当には月XX時間分の時間外手当を含む」と、就業規則(賃金規程)や契約書に定めます
- 定額残業代に含める時間数については、下記を参照して下さい
- 実際の残業時間が、上記で定めた時間を超過したときには、超過分の割増賃金を支払うこと
- 固定残業代部分の金額が、法で定める割増賃金額を下回らないこと
- 定額残業代(A)は、次式で得られます
A=(賃金総額−A)×(割増率)×(時間外労働時間数)/(月平均所定労働時間)
例えば、月平均所定労働時間が173時間、賃金総額が20万円の従業員に対し、月30時間分の定額残業代を含めるとすると、 定額残業代は、35,630円となります
- 定額残業代(A)は、次式で得られます
- 最低賃金を下回らないこと
- 例えば、上記の場合で、賃金総額が基本給と定額残業代だけであるとすると、基本給は、(20万円−35,630円)/173=950円/時間となり、最低賃金を超えています
- 総額は同じでも、基本給を減らして定額残業代(残業時間数)を増やすと、時給が下がります、時給が最低賃金と等しくなる点が、定額残業代に含める時間数の上限となります
- 上記の例で、最低賃金を800円/時間とすると、
基本給=800円/時間x173時間=138,400円
定額残業代=20万円−138,400円=61,600円
残業時間数=61,600/(800x1.25)=61.6時間
この場合、61時間が上限となります
(「時間外労働の限度に関する基準」では、36協定で延長時間を定める場合の限度時間が45時間/月とされていますので、45時間を超えるのはどうかと思いますが、実残業時間が36協定内であれば、法的には60時間とすることも可能かもしれません)
定額残業代の未消化部分の繰越
上述の通り、実際の時間外労働が、固定残業時間を超過したときには、超過分の割増賃金を支払わなければなりませんが、逆に実際の時間外労働が、固定残業時間より少なかったとき(即ち、定額残業代の未消化部分があるとき)は、どう処理するのでしょうか。
- 未消化部分があっても定額残業代がそのまま支払われる(即ち、未消化部分を翌月に繰り越さない)のであれば、本来の残業代より多い定額残業代が支払われることとなり、全く問題はありません
- 労働者にとっては、利益となります
- 未消化部分を翌月以降に繰り越すことができるという裁判例もあるようです(翌月以降の残業代の前払いとすると云うことです)が、一般的ではなく、採用しない方が良いと思います。
- この場合、もし繰り越しが長期に続くのであれば、結局残業時間に合わせて残業代を支払うことになり、定額残業代制度の意味が判然としません
- 或いは、未消化分を退職時に精算する必要も出てくるのかもしれません
定額残業代方式の導入
定額残業代方式は、制度設計の内容により、或いは社員にとって不利益変更となる場合は、適正な手続を取らなければトラブルを起こすことになりかねませんので、導入に当たっては専門家と十分に相談することをお勧めします。
- 基本給が従来と同じとき(定額残業代を従来の基本給にプラスして支給する場合です)
- 未消化部分を翌月以降に繰り越さないのであれば、労働者にとってみれば、固定残業時間数以内に労働時間を抑えれば得をするので、業務の効率化を促し、結果的に人件費を主として経費を削減する効果が期待されます ⇒ これが一般に云われている目的です
- 未消化部分を翌月以降に繰り越すのであれば、経費的には何のメリットもないように思われます(むしろ給与計算が面倒になるだけではないでしょうか)
- 基本給を減額するとき(人件費削減のため、基本給の減額と併せて定額残業代方式を導入するケース)
- 仮に、賃金総額が従来とそれ程変わらなくても、定額残業代の時間数を増やせば基本給が下がり、残業時間が定額部分を超えて増えたときでも時間当たりの割増賃金額が減ることで人件費の削減ができます(退職金が基本給を基礎として計算されるときは、退職金も減額となりますので注意が必要です)
- 基本給や退職金等が減額となる場合は、労働条件の不利益変更となりますので、所定の手続き(対象となる社員の個別合意と就業規則の変更等)を経る必要があります