労働契約上の労働条件について
労働(雇用)契約を結ぶ場合に、労働基準法やパート労働法によって、一定の労働条件について書面で明示するように規定されていますが、労働契約自体は、必ずしもそうした書面による合意がなくても成立します。
ここでは、労働条件はどのように決まるのか、そしてその変更はどのようになされるのかについて記載します。
労働契約と労働条件
通常、求人条件を見て応募し、採用につながっていくのですが、求人条件に記載されている労働条件は、大体の目安であることが多く、労働契約時に改めて条件をお互いに確認し合意することになります。
- 労働基準法では、次の労働条件を明示することが事業主に義務付けられています。
- 必ず明示しなければならない事項
- 労働契約の期間に関する事項
- 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の就業転換に関する事項
- 賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期に関する事項
- 退職に関する事項 (解雇の事由を含む)
- 昇給に関する事項
- 制度を設ける場合に明示しなければならない事項
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに支払いの時期に関する事項
- 臨時の賃金、賞与及び最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 休職に関する事項
- 上記「必ず明示しなければならない事項」は、昇給に関する事項を除き、書面で交付しなければなりません。
- パート労働法では、パートタイマーに対しては、上記の他に次の労働条件を明示することが義務付けられています。
- 「昇給の有無」、「退職手当の有無」、「賞与の有無」
- 職業安定法では、更に次の労働条件を明示することが義務付けられています。
- 労働社会保険の適用に関する事項
上記労働条件の中、「必ず明示しなければならない事項」の最初の2項目以外は、就業規則に定められているので、それら事項については就業規則を交付することで構わないことになっています。
尚、採用内定は判例によって労働契約の成立であると解されているので、労働条件の明示も採用内定段階でなされる必要があります。
労働条件が明確でない場合
労働条件は、上記の通り、労働契約時に合意することになっていますが、全ての詳細について一つ一つ合意することは現実的ではありません。また、労働条件を示すものとして、労働契約時の個別契約書(労働条件通知書等を含む)の他に、法令、(組合がある場合)労働協約、(就業規則がある場合)就業規則がありますが、それらの間に差違があることも考えられます。そうしたことから、法令では次のように定められています。
- 労働契約に定める労働条件が、労働基準法の基準に達しない場合は、労働基準法の基準が適用される(労働基準法13条)
- 労働協約に定める労働条件は、個別の労働契約に優先する(労働組合法16条)
- 就業規則は、法令又は労働協約に反してはならない(労働基準法92条、労働契約法13条)
- 労働契約に定める労働条件が、就業規則の基準に達しない場合は、就業規則の基準が適用される(労働契約法12条)
- 合理的な労働条件を定めている就業規則を労働者に周知させている場合は、就業規則の労働条件が契約内容となる(労働契約法7条)
(労働者が実際に知っているかどうかは別として、知り得る状態になっていれば良い)
上記をまとめると次のようになります。
- 労働契約時に合意した労働条件
- 法令の基準より労働者に不利な場合は、法令の基準が適用される(有利な場合は、契約通りとなる)
- 労働協約と異なるときは、労働協約が適用される(有利・不利に拘らず、労働協約が優先される、但し、組合員でなければ契約通りとなる)
(尚、法令より不利な労働協約は無効なので、法令基準より劣ることはない) - 就業規則の基準より労働者に不利な場合は、就業規則が適用される(有利な場合は、契約通りとなる)
(尚、法令より不利な就業規則は無効なので、法令基準より劣ることはない)
- 労働契約時に合意していない労働条件
- 労働協約や就業規則に規定があれば、それらが適用される(優先順位は、@労働協約、A就業規則の順)
- 労働協約にも就業規則にも規定されていないときは、法令が適用される
労働条件の変更
労働条件は、使用者と労働者が合意すれば、上述の法規定の範囲内で変更することができます(労働契約法8条)。労働者に有利な変更であれば、労働者が反対することは考えられず、変更に支障はないでしょう。
不利益変更でも、労働者の合意があれば、変更することができます。但し、労使の力関係を考慮して、労働者の合意が自由意思によるものかどうか慎重に判断されます。
問題は、労働者にとって不利益となる変更で、しかも労働者の合意が得られない場合です。
労働契約法10条に、「変更後の就業規則を労働者に周知させ、且つ、変更が合理的であれば、変更された就業規則の労働条件が適用される」と規定されています。
就業規則は、基本的に使用者側が作成します(労働者側の意見は聴きますが、同意を得る必要はありません)ので、就業規則を変更することで労働者にとって不利益な変更も可能ということになりそうですが、判例では、この条文にある「合理性」に対し厳しい判断がなされており、容易には不利益変更は認められません。
- 変更が合理的かどうかは、次のことから総合的に判断されます
- 労働者の受ける不利益の程度
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働条件の変更の必要性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
- 尚、個別の労働契約において、就業規則の変更によっては変更されないと合意されていた労働条件については、当該労働者に対しては変更されません。
更に、「就業規則の変更によっては変更されないと合意されていた労働条件」についても不利益変更する方法として、『変更解約告知』があります。
これは、労働条件の不利益変更に労働者が合意しないとき、新労働条件での再契約か、それを拒否するときは労働契約の解約という二者択一を迫るもので、制度として賛否両論あるようですが、今後こうしたケースが増える可能性はあると思われます。
労使慣行
労使慣行とは、就業規則や労働協約には規定されていないが、長い間反復・継続して行われており、使用者と労働者の双方に対し、事実上の規定として取扱われているものをいいます。
労使慣行も、労働契約の内容になっていると認められる場合は、労働契約としての効力があるので、それらを変更する場合も、上記の労働条件変更のルールや手法が適用されることになるので注意が必要です。