有期労働契約に関する法規制
有期労働契約は、期間の定めのある労働(雇用)契約であり、日雇、アルバイト、パートタイマー、契約社員、嘱託、派遣社員、等の多くの場合の労働契約に用いられています。
有期労働契約は、契約期間が満了すれば雇用関係が終了するわけですが、契約を更新して延長する場合も多く、それに伴いトラブルも生じています。
労働契約法や労働基準法等の労働法は、有期労働契約者にも当然ながら適用されますが、ここでは、有期労働契約に関して特に注意すべき法規制について記載します。
有期労働契約者の契約期間
労働基準法14条により、有期労働契約期間の上限は、次の場合を除き、原則3年以内と定められています。
- 例外ケース
- 建設の事業等の有期事業の場合: 事業の終了まで
- 労働基準法70条の認定職業訓練を受ける場合: 訓練が終了するまで
- 高度の専門的知識を有する労働者がその高度の専門的知識を必要とする業務に就く場合: 5年以内
- 満60歳以上の労働者との労働契約: 5年以内
- 3年を超える労働契約期間は3年となります
- 有期事業や認定職業訓練の場合を除き、契約の更新は何回でも可能です
一方、有期労働契約期間の下限については、特に定めはありませんが、労働契約法17条において、「必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない」とされています。
また、「有期労働契約の締結、更新、雇止めに関する基準」に、「契約を1回以上更新し、1年を超えて継続して雇用している有期契約労働者との契約を更新しようとする場合は、契約の実態及びその労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない」とあります。
有期労働契約から無期労働契約への転換(及びその特例)
労働契約法改正により、平成25年4月より、有期労働契約が5年を超えて反復更新されたときには、無期労働契約に転換できることとなりました。(平成25年4月以降に締結された有期労働契約から、この5年の契約期間に算入されます)
- 5年を超えて以降に締結している有期労働契約の期間満了までに労働者が転換を申し込む必要があります(転換を申し込むかどうかは労働者の自由ですが、申し込んだ場合、使用者側に拒否権はありません)
- 無期労働契約に転換するのは、申込時の有期労働契約の期間満了時です。
- 有期労働契約期間と期間の間に次のクーリング期間を置くと、契約期間が通算されなくなります
- 有期契約期間 クーリング期間
2ヶ月以下 1ヶ月以上
2ヶ月超〜4ヶ月以下 2ヶ月以上
4ヶ月超〜6ヶ月以下 3ヶ月以上
6ヶ月超〜8ヶ月以下 4ヶ月以上
8ヶ月超〜10ヶ月以下 5ヶ月以上
10ヶ月超 6ヶ月以上
- 有期契約期間 クーリング期間
- 労働条件は、別段の定めがなければ、有期労働契約と同じとなります(無期転換時に労働条件を変更するのであれば、予めその旨定めておく必要があります)
平成26年に施行された有期雇用特別措置法により、次の2ケースにおいては、予め都道府県労働局の認定を受けておけば、上記無期転換ルールに対して例外扱いがなされることとなりました。
- 専門的知識等を有する有期雇用労働者
- 定年に達した後引き続いて雇用される有期雇用労働者
有期労働契約の途中解約
労働契約法17条1項に、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、止むを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」 と規定されており、この「やむを得ない事由」は、解雇における「客観的に合理的で、社会通念上相当と認められる事由」より厳しく解されています。(つまり、余程の事情がなければ認められないということになります)
一方、労働者側からは、1年を超える有期労働契約を締結したとき、1年経過後はいつでも退職できます(損害賠償の責任を負わない)(労基法附則137条)
有期労働条件の更新・雇止め(更新拒否)
「労働基準法施行規則」及び「有期労働契約の締結、更新、雇止めに関する基準」に、次の規定があります。
- 契約の更新の有無等
- 契約の更新の有無
(例:自動的に更新する/更新する場合がある/更新しない/・・・) - 更新する場合があると明示したときは、契約を更新する場合又はしない場合の判断の基準
(例:契約期間満了時の業務量で判断する/勤務成績・態度により判断する/業務遂行能力により判断する/経営状況により判断する/業務の進捗状況により判断する/・・・) - 契約の締結後に更新の有無及び判断の基準を変更する場合には、速やかにその内容を明示しなければならない
- 契約の更新の有無
- 雇止めの予告
- 有期労働契約(あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除き、かつ有期労働契約が3回以上更新されているか、労働者を1年を超えて継続して雇用している場合に限る) を更新しない場合には、少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない
- 雇止めの理由の明示
- 雇止めの予告後に労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なくこれを交付しなければならない
- 雇止めの後に労働者から請求された場合も同様である
契約期間を過ぎても、(例えば失念により)更新することなくそのまま労働関係を継続していた場合には、黙示の更新とみなされます(民法629条)。(この場合に、前回と同じ期間で更新したとみなす見解と更新後は期間の定めのない契約となるという見解の2つがあるようです)
- 有期労働契約を反復更新した後の雇止め
有期労働契約締結時に、当初から期限を切っていれば、その期限が来れば契約もそこで終了となるのですが、いつまで勤務してもらうかはっきりしない場合は、適当な期間の契約を反復更新していくことになります。このように契約を反復更新した後に雇止めする場合にトラブルとなることがあります。
平成24年に、これまでの判例に基づき労働契約が改正され、次のいずれかに該当する場合で、「雇止めが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、従前の有期労働契約がそのまま更新されることとなりました。
- 有期労働契約の反復更新により、実質的に期間の定めのない労働契約と同視できる
- 労働者が、有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある
尚、これらに2ケースに該当するかどうかの判断基準は次の通りです。
- 業務内容の恒常性・臨時性
- 地位の基幹性・臨時性
- 継続雇用を期待させる言動・制度等
(a) 就業規則等に正社員への登用の規定がある
(b) 過去に正社員に登用された事実がある
(c) その他 - 更新の回数、雇用期間の通算期間、契約期間管理の状況
- 他の労働者の雇止めの有無、更新状況
- 雇止めの合理的理由(使用者のやむを得ない理由を含む)
不合理な労働条件の禁止
平成25年4月より、有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることにより不合理に労働条件を相違させることが禁止されます。
賃金や労働時間等だけでなく、労働契約の内容となっている災害補償、服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生等、労働者に対する一切の待遇(労働条件)が含まれます。
不合理性の判断については、通達において、「有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるものであること。とりわけ、通勤手当、食堂の利用、安全管理などについて労働条件を相違させることは、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して特段の理由がない限り合理的とは認められないと解される」とあります。
尚、不合理として無効とされた労働条件については、基本的には、無期契約労働者と同じ労働条件が認められると解されます。