募集・採用における法規制
社員を募集・採用する場合に適用される法規制や注意事項を取り上げます。
募集・採用における主な法規制は次の通りです。
- 雇用対策法: 募集、採用において、年齢にかかわりなく雇用の機会を与える(10条)
- 男女雇用機会均等法: 性別を理由とした募集、採用差別を禁止(5条)
- パート労働法: 短時間労働者に対し、昇給、退職手当、賞与の有無を明示しなければならない(6条)
- 職業安定法: 従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない(5条の3)
労働者の個人情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない(5条の4) - 労働基準法: 労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない(15条)
この他にも次のような法規制がありますが、ここでは省略します。
- 障害者雇用促進法: 一定比率以上の障害者雇用を義務付け(43条)
⇒ こちら(障害者の就労支援)を参照下さい。 - 労働組合法: 労働組合からの脱退や組合に加入しないことを採用条件とすることを禁止
- 職業安定法: 紹介に対する報酬に関すること
- 高年齢者雇用安定法: 一定の年齢(65歳以下)を下回ることを条件とするときは、求職者に対し、その理由を示さなければならない(18条の2)
年齢差別の禁止
募集・採用における年齢制限は、次の雇用対策法施行規則第1条の3に示す例外ケースを除き、禁止されています。(厚生労働省HP「募集・採用における年齢制限の禁止について」より抜粋)
- 定年年齢を上限として、その上限年齢未満の労働者を期間の定めのない労働契約の対象とする場合(例:定年が60歳の会社が、60歳未満の方を募集する)
- <禁止例>
- 期間の定めのある契約
- 下限年齢を付している
- 労働基準法等法令の規定により年齢制限が設けられている場合(例:18歳以上の方を募集(労働基準法第62条の危険有害業務))
- 長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等を期間の定めのない労働契約の対象とする場合
- <禁止例>
- 期間の定めのある契約
- 職務経験を付している
- 下限年齢を付している
- 技能・ノウハウの継承の観点から、特定の職種において労働者数が相当程度少ない特定の年齢層に限定し、かつ、期間の定めのない労働契約の対象とする場合(例:電気通信技術者として、30〜39歳の方を募集(電気通信技術者は、20代が10人、30代が2人、40代が8人))
- <禁止例>
- 「30歳から49歳」の範囲におさまっていない
- 年齢幅が「5〜10歳」を超えている
- 同じ年齢幅の上下の年齢層と比較して2分の1以下となっていない
- 芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請がある場合(例:演劇の子役のため、○歳以下の方を募集)
- 60歳以上の高年齢者又は特定の年齢層の雇用を促進する国の施策の対象となる者に限定して募集・採用する場合(例:60歳以上の方を募集)
- <禁止例>
- 60歳以上の高齢者を募集・採用する際に、上限年齢を付している
- 募集・採用する年齢層が国の施策の対象となる特定の年齢層と異なる
男女差別の禁止
募集・採用に当たっての男女双方に対する下記のような差別は禁止されています。(厚生労働省パンフレット「男女雇用機会均等法のあらまし」より抜粋)
- 直接差別の禁止
- 募集・採用の対象から男女のいずれかを排除する
- 募集・採用の対象を男女のいずれかのみとする
- 「営業マン」「ウエイトレス」など男女のいずれかを表す職種の名称で募集する
- 「男性歓迎」「女性向きの職種」等の表示をする
- 形式上男女を募集の対象としているが、応募の受付等の対象を男女のいずれかのみとする
- 派遣元事業主が、一定の職種について派遣労働者になろうとする者を登録させるに当たって、その対象を男女のいずれかのみとする
- 募集・採用の条件を男女で異なるものとする
- 女性についてのみ、未婚であること、子を有してないこと、自宅から通勤すること等を条件とし、又はこれらの条件を満たすものを優先する
- 採用選考において、能力・資質の有無等を判断する方法や基準について男女で異なる取扱いをする
- 筆記試験や面接試験の合格基準を男女で異なるものとする
- 男女で異なる採用試験を実施する
- 男女のいずれかについてのみ、採用試験を実施する
- 採用面接に際して、結婚の予定の有無、子供が生まれた場合の継続就労の希望の有無等一定の事項について女性に対してのみ質問する
- 募集又は採用に当たって男女のいずれかを優先する
- 採用選考に当たって、採用の基準を満たす者の中から男女のいずれかを優先して採用する
- 男女別の採用予定人数を設定し、募集する。又は、設定した人数に従って採用する
- 男女のいずれかについて採用する最低の人数を設定して募集する
- 男性の選考を終了した後で女性を選考する
- 求人の内容の説明等情報の提供について、男女で異なる取扱いをする
- 会社案内等の資料を男女のいずれかにのみ送付したり、又は資料の内容、送付の時期等を男女で異なるものとする
- 会社説明会の対象を男女のいずれかのみとしたり、会社説明会の実施時期を男女で異なるものとする
- その他
- 面接に際してセクシュアルハラスメントに当たる質問をすることも許されません
- 平成11年の労働基準法改正により、女性の深夜労働についての規制が撤廃されたことに伴い、女性労働者が円滑に深夜業に従事できるよう事業主が就業環境を整備することが求められています。したがって、深夜業に伴う就業環境が整備されていないことを理由として、女性に不利益な取扱いをすることは許されません
- 【適用除外】男女異なる取扱いをすることに合理的な理由があるものとして、次の適用除外が認められていますが、一方の性でなければならない業務に限られ、単に一方の性に適しているというだけでは該当しません
- 芸術・芸能の分野における表現の真実性などの要請から男女のいずれかのみに従事させることが必要な職業 →モデル、俳優など
- 守衛、警備員など防犯上の要請から男性に従事させることが必要な職業 →現金輸送車のガードマンなど
- 宗教上、風紀上、スポーツ競技の性質上その他の業務の性質上男女のいずれかのみに従事させることについて上記2つの職業と同程度の必要性があると認められる職業 →一定の宗派における神父・巫女、女性更衣室の係員、男女別に行われる競技の選手
- 労働基準法により女性を就業させることができず、又は保健師助産師看護師法により男性を就業させることが出来ない職業 →一部の危険有害業務、助産師
- 風俗、風習などの相違により男女のいずれかが能力を発揮しがたい海外での勤務が必要な場合、その他特別の事情により労働者の性別にかかわりなく均等な機会を与えること、又は均等な取扱いをすることが困難であると認められる場合 →勤務地が通勤不可能な山間僻地にあり、事業主が提供する施設以外に宿泊できない場合で、かつその施設を男女共通で利用することができない場合など
- 【ポジティブ・アクション】現在存在する男女間の不均等を是正するために、女性労働者に関して行う特例措置を講ずることは認めています
- 間接差別の禁止
- 労働者の募集又は採用に当たって、労働者の身長、体重又は体力を要件とする
- <合理的な理由がないと認められる例>
- 荷物を運搬する業務を内容とする職務について、必要以上の筋力があることを要件とする
- 単なる受付、出入者のチェックのみを行なう等防犯を本来の目的としていない警備員の職務について、身長又は体重が一定以上であることを要件とする
- 労働者の募集又は採用に当たって、転居を伴う転勤に応じることが出来ることを要件とする
- <合理的な理由がないと認められる例>
- 広域にわたり展開する支店、支社等がなく、かつ、支店、支社等を広域にわたり展開する計画等もない場合
- 広域にわたり展開する支店、支社等はあるが、長期間にわたり、家庭の事情その他の特別な事情により本人が転勤を希望した場合を除き、転居を伴う転勤の実態がほとんどない場合
- 広域にわたり展開する支店、支社等はあるが、異なる地域の支店、支社等で管理者としての経験を積むこと、生産現場の業務を経験すること、地域の特殊性を経験すること等が幹部としての能力の育成・確保に特に必要であるとは認められず、かつ、組織運営上、転居を伴う転勤を含む人事ローテーションを行なうことが特に必要であるとは認められない場合
個人情報の取扱い
募集・採用における個人情報の取り扱いについて、厚生労働省告示141号(H11)及び東京都産業労働局雇用就業部発行のパンフレット「採用と人権」より抜粋したものです。
- 収集してはならない個人情報
告示では、「その業務の目的の範囲内で求職者等の個人情報を収集すること」とし、特に以下の「個人情報を収集してはならないこと」と定めています- 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
例 :「本籍地・出身地」「家族状況(学歴、職業、収入等)」「生活環境・家庭環境」「住宅状況」「本人の資産(借入状況)」「容姿・スリーサイズ」「血液型・星座」 - 思想及び信条
例 :「思想」「宗教」「人生観」「生活信条」「支持政党」「購読新聞・雑誌」「愛読書」「尊敬する人物」等 - 労働組合への加入状況
例:社会運動に関する情報(労働運動、学生運動、消費者運動等)
- 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
- 個人情報を収集・保管・使用する場合
- 上記の個人情報は原則として収集してはなりません
- 個人情報を収集する際には、本人から直接収集し、又は本人の同意を得たうえで本人以外の者から収集する等「適法かつ公正な手段」によらなければなりません
- 高等学校若しくは中等教育学校又は中学校の新規卒業予定者から応募書類の提出を求める場合、職業安定局長の定める書類(「全国高等学校統一応募書類」又は「職業相談票(乙)」)により提出を求めることとされています
- 個人情報の保管・使用は、その収集目的の範囲に限られます。他の目的に使用することは認められません
- 個人情報は、適切な管理をしなければなりません。そのため、保管する必要がなくなった個人情報を破棄するための措置等を講ずる必要があります
- 選考
- 面接において、思想、信条、家庭状況等を聞きだしてはいけません
- 採用に関する身元調査は絶対にしないでください
尚、厚生労働省HPの「採用のためのチェックポイント」によると、「合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施は、就職差別につながる恐れがある」とありますが、法定の健康診断項目の検診であれば、労務提供の可否を判断するのに必要であるとして、受診させても問題ないとされているようです。
但し、B型肝炎、HIV、色覚異常等は、調査の必要がある場合であっても、個人のプライバシーに関する重要なものなので本人の同意が得られたときに限り実施できると考えられます。
最近、うつ病等の精神疾患に対するリスク対応として、採用選考時に「健康告知書(健康歴)」の提出を求めるケースが見られます。強制ではなく、自由記載(記入したくなければ書かなくても良いということですが、記入がなければ何かあるのだなと判断されることになるでしょう)であれば、提出を求めても問題ないようですが、もし「健康告知書」に虚偽の記載をしていたとしても、そのことにより直ちに解雇できるとは限らないと思われますので、注意が必要です。
採用内定
採用内定(採用決定)は、始期付解約権留保付労働契約が成立したものとみなされます。法的規制は特にありませんが、内定や内々定の取消については、いくつかの裁判例により、一般に次のように考えられています。 ⇒ こちら(採用内定取消)を参照下さい。
- 採用内定の取消
- 内定取消しは、客観的に合理的で社会通念上相当とされる理由がなければできません
- 債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求が認められることがあります
- 採用内々定の取消
- 内々定は、労働契約締結の予約とみなされ、労働契約は成立していないとされています
- 内々定取消は解雇には当たらないが、期待利益を侵害するものとして不法行為を構成し損害賠償の対象となることがあります