副業・兼業(二重就労)
「働き方改革」の一環として政府は副業・兼業(二重就労)を推進するために「ガイドライン」や「モデル就業規則」等を公表していますが、まだまだ多くの会社は就業規則において副業・兼業を禁止し、違反した場合は、懲戒処分の対象となり得るとしているのではないかと思います。
裁判例では、所定労働時間外における従業員の自由を保障する観点から、職場の秩序に影響したり、労務提供に支障をきたしたり、或いは競業会社での副業・兼業といった場合にそうした副業・兼業規制が許されると判断されているようです。
ここでは、副業・兼業を認めた上で(少なくても後から雇用する会社において)のいくつかの問題について記載します。(他にも、情報漏洩の問題がありますが、ここでは省略します。)
詳細については、厚労省の「副業・兼業の促進 に関する ガイドライン」(令和2年9月改定版)を参照してください。
労働保険・社会保険
- 労働保険(労災保険)
労災保険については、通常会社に雇用されるのであれば当然に対象となりますので、両方の会社で加入することになります。 事業主が異なる複数の事業場と労働契約関係にある労働者をの方を「複数事業労働者」と呼んでいます。
- 複数事業労働者が万一労災事故が発生した場合、これまでは、事故が発生した就業先の賃金のみに基づき労災保険給付額が算定されていました。
- 令和2年9月の法改正により、このような場合、全ての就業先の賃金を合算して労災保険給付を算定することになりました。
- 就業先間の移動も通勤とみなされ、労災保険給付の対象となります。
- 労働保険(雇用保険)
雇用保険については、1週間の所定労働時間が20時間以上で31日以上の雇用見込みがあれば被保険者となるのですが、厚生労働省の行政手引きによると「同時に2以上の雇用関係にある労働者は、主たる生計を維持する賃金を受ける事業所のみの被保険者となる」と規定されており、原則以下の取り扱いとなります。
- 給与の多い方の会社でのみ加入することになります。
- 社会保険
従来は、所定労働時間と所定労働日数が通常の就労者の概ね4分の3以上(目安)である場合に被保険者になっていたため、通常の副業・兼業では、アルバイトの方は短時間でしょうから、社会保険はメインの会社でのみ被保険者となっていたと思います。しかし、平成28年10月より社会保険の適用範囲が拡大され、従業員が501人以上の企業や団体については、週20時間以上働く方も対象となりました(被保険者となるには、他にも要件があります)。
そのため、今後は2社でパートで働くような場合に、両方で被保険者資格を取得する方が生じるのではないかと思われますが、その場合は、以下の取り扱いとなります。
- 被保険者がいずれか1つの事業所を選択し、「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を、選択した事業所を管轄する年金事務所に届け出ます。
- 保険料の算定基礎となる標準報酬月額は、各事業所で受ける給与(報酬月額)の合算額に基づいて決められます。
- 算定基礎届や月額変更届は、それぞれの事業所で手続きし、選択した事業所の管轄の年金事務所に提出します。
副業・兼業における労働時間・休日
労働基準法では、法定労働時間は原則1日8時間、1週40時間と定められ、これを超えて労働させるには36協定の締結が必要で、また、超えた労働には割増賃金を支払うことが義務付けられています。
また、時間外労働と休日労働の合計は単月で100時間未満、複数月平均80時間以内という要件もあります。
副業・兼業のそれぞれの職場ではこの規定は守られているでしょうが、問題は労働時間の通算です。 労働基準法38条において、「労働時間は、事業場を異にする場合でも通算する」と規定されています。そして、この「事業場を異にする」には、会社が異なる場合も含まれるとされています。それ故、例えば、1日8時間勤務する社員が、早朝或いは定時後に数時間のアルバイトを別会社で行うとすると、法定労働時間を超えることになります。(土曜日の休日でのアルバイトでも、法定労働時間の週40時間を超えることになりますし、法定休日の場合は休日労働となります。)
このように副業・兼業の結果、法定労働時間を超えて労働することになった場合、36協定はどうするのか、割増賃金は誰が支払うのかという問題があります。
- 36協定
36協定に定めた延長時間の範囲内であるか否かについては、 自らの事業場における労働時間のみが対象となりますので、複数事業労働者に対して特別な管理が必要となるわけではありません。 。
- 時間外労働の上限規制
時間外労働と休日労働の合計は単月で100時間未満、複数月平均80時間以内という時間外労働規制については、全ての就業先での労働時間を通算することになりますので、注意が必要です。
- 割増賃金
全ての就業先での労働時間を通算し、その時間が法定労働時間を超えていれば、後から雇用契約した方が割増賃金を支払うことになります(勿論、自社での労働時間が法定労働時間を超えていれば、超えた分の割増賃金は自社が支払わなければなりません)。つまり、早朝のアルバイトでも、後からその雇用契約を締結して、それによって1日の法定労働時間を超えることになれば、早朝のアルバイト先が割増賃金を支払わねばなりません。
この割増賃金の支払いは、後から雇用する会社が副業・兼業であることを知っている場合にのみ義務化されるとされており、知らなかったときは支払う必要はないようです。副業・兼業と知らされた場合は、わざわざ高い割増賃金を払ってまで雇い入れるということはないでしょうが、・・・。
(割増賃金込みで他の社員と同じ賃金(時給)にするという方法はありますが、その場合、最低賃金をクリアしている必要があります。)
過重労働
上記労働時間の問題と関連しますが、過重労働(長時間労働)により労働者に健康障害が生じたとき、会社の安全(健康)配慮義務違反の問題が生じる恐れがあります。
脳・心臓疾患と精神障害の労災認定基準に、労働時間に関する判断が規定されていますし、労働安全衛生法には、長時間労働時の面接指導の規定があります。 ⇒ 詳細はこちら(長時間労働・過重労働)
副業・兼業と知っていて、長時間労働による労災と認定されたときは、安全配慮義務違反による損害賠償責任が生じかねませんので、当該労働者の全労働時間をきちんと把握して、適切な措置をとる必要があります。