残業時間と残業代計算
「労働時間・休憩・休日の法規制」のページで述べたように、実働時間が所定労働時間を超えた場合、超えた労働時間を残業時間と呼びます。更に、法定労働時間(変形労働時間制において法定労働時間を超える所定労働時間を設定した場合には、それら所定労働時間)を超えた残業時間を時間外労働時間、また、法定休日に働いた時間を休日労働時間といいます。
所定労働時間が法定労働時間より短いときは、法定労働時間までは36協定を締結することなく残業(この残業を、ここでは”法内残業”といいます)を命じられます。(但し、育児介護休業法に規定する所定外労働の免除対象者を除きます。また、就業規則や雇用契約書に残業を命じる規定(例えば、「会社は業務の都合により残業を命じることがある」)が必要です。)
次に、労働基準法は、以下の3つのケースにおいては、更に時間外労働や休日労働を労働者にさせることを認めています。
- 災害等の非常時
- (官公署における)公務
- 労使協定(36協定)を締結
そして、これら時間外労働や休日労働に対しては割増賃金を支払うことが法で定められています。
時間外労働や休日労働の時間を適正に把握し、それに対して適正に割増賃金を支払わないと、未払い賃金のトラブルが発生することがあり得ます。その場合は、法114条により、未払い金と同一額の付加金の支払いを命じられることも考えられますので十分な注意が必要です。
ここでは、これら残業と、その残業代の計算方法について説明します。
尚、年少者(満18歳未満の者)や妊産婦には、ここでは取り上げませんが、別にいくつかの規定が定められていますので注意が必要です。
3つの残業
残業には、次の3つがあります。
- 法内残業(法定内残業)
- 法内残業とは、所定労働時間は超えているが法定労働時間内の残業をいいます
- 例えば、所定労働時間が1日7時間の従業員が8時間働くと、1時間の法内残業をしたことになります
- では、所定労働時間が法定労働時間と同じであれば法内残業は発生しないかというと、必ずしもそうではありません
例えば、祝日があって3日の休日がある週において、休日(法定休日以外)に8時間働いたとします。もし、この週の平日に時間外労働をしていなければ、その休日勤務時間を加えても40時間/週の法定労働時間を超えないので、その8時間の休日勤務時間は法内残業となります
他にも、有休を取得した週に休日出勤をすると発生します
- 法内残業時間に対しては、労働基準法は、割増賃金を支払うことを求めていません(詳細後述)
- 時間外労働
- 時間外労働とは、法定労働時間(変形労働時間制において法定労働時間を超える所定労働時間を設定した場合には、それら所定労働時間)を超えた残業をいいます(但し、次項の休日労働は除きます)
- フレックスタイム制においては、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間が時間外労働となりますが、清算期間が1ヶ月を超える場合は、1ヶ月ごとに週平均50時間を超えた労働時間も時間外労働となります
- 休日出勤しても、法定休日における休日労働以外は、上述の法内残業以外は時間外労働となります
- 法定休日を跨って時間外労働したときは、注意が必要です
例えば、金曜日の残業が、法定休日である土曜日の午前2時まで及んだとすると、時間外労働は金曜日の24時(土曜日の午前0時)までであり、土曜日の午前0時から午前2時までは休日労働となります - 上述の法内残業と混同しないようにして下さい
- 時間外労働時間に対しては、労働基準法に従っては、割増賃金を支払わなければなりません(詳細後述)
- 休日労働
- 休日労働とは、法定休日における労働(残業)をいいます
- 法定休日とは、週休1日のときはその日、週休2日以上のときは、その中の1日(就業規則等で法定休日と定めた日、定めがないときは週の最後の休日)です
法定休日の詳細は、「労働時間・休憩・休日の法規制」を参照して下さい
- 法定休日とは、週休1日のときはその日、週休2日以上のときは、その中の1日(就業規則等で法定休日と定めた日、定めがないときは週の最後の休日)です
- 休日労働時間に対しては、労働基準法に従っては、割増賃金を支払わなければなりません(詳細後述)
労働基準法第41条に定める、労働基準法の労働時間や休日の規制が適用されない者(例えば、農家や農業法人に雇用される者、管理監督者等が該当します)について少し補足します。
- これらの者には、法定労働時間や法定休日の規制が適用されないので、時間外労働や休日労働は発生しません
- しかし、深夜労働の規定は適用されることから、深夜労働をしたときには深夜割増賃金を支払う必要があります。そうするとその時間単価が必要になることから、所定労働時間を定めておかなければなりません
- では、所定労働時間を超えて働いた場合、それを残業として残業代を支払う必要があるのでしょうか
- 管理監督者の場合、所定労働時間を超えて働いても残業代は支払っていないと思います
- しかし、管理監督者以外の場合は、割増は不要だが、通常の時間給相当額を支払うよう行政は指導しているようです
(恐らく、管理監督者の場合は、基本給や役職手当等にこの残業代相当額が含まれているという考えなのでしょう) - 上記一般的取扱いで問題はないと思いますが、異なる取り扱いも可能です。その場合は、就業規則や雇用契約書にて、この残業時間に対しては時間単価いくらで支払う(或いは支払わない)と規定しておいた方が良いと思います
残業をさせるには
普段から残業している職場では、気にすることもないかもしれませんが、労働基準法では、次の場合に残業させることができるとされています。(但し、年少者や育児介護休業法等、別に残業制限がありますので注意して下さい。)
- 非常時対応
- 災害等非常時に対応するために時間外労働や休日労働をさせるときは、事前に(若しくは事後)労働基準監督署の許可が必要となります
- 労使協定(36協定)の締結
- 労働協約や就業規則等で残業をさせることができる旨明記しておかなければなりません(例:「会社は業務の都合により残業を命じることがある」)
- 法定労働時間を超えて労働させる場合、或いは法定休日に労働させるときは、労使で36協定を締結し、労働基準監督署に届け出ておく必要があります ⇒ 労使協定(36協定)について
- 所定労働時間を超えても、法定労働時間を超えないのであれば36協定の締結・届出は必要ありませんが、法定労働時間を超えることが予想されるのであれば、予め締結、届出しておくべきです
- 36協定の内容や締結の仕方についても法の規定がありますが、ここでは省略します
- 派遣労働者については、派遣元で36協定の締結をする必要があります
- 36協定で締結した範囲内で、時間外労働及び休日労働をさせることができます
- 但し、坑内労働や健康上特に有害な業務(詳細省略)については2時間を超えて延長してはなりません(必ずしも、法定労働時間8時間+2時間=10時間/日以内ということではなく、変形労働時間制を適用している場合は、ある特定の日の所定労働時間が9時間となっているときは、それに最大2時間延長できるということです)(休日労働の場合は、10時間/日が限度となります)
- 上記条件を満たしている場合、正当な理由がなく残業命令に従わないときは、懲戒処分の対象となり得ます
残業代の計算基礎となる時間当たり賃金
残業代の計算基礎となる時間当たり賃金は、次により求めます。法内残業を含めて同じ時間単価を用いているケースが多いと思いますが、法内残業については、法的規制は特にないので、別に定めることも可能です。
- 法内残業の残業代
- 厚労省によると「(法内残業には)原則として通常の労働時間の賃金を支払わなくてはならない。ただし、労働協約、就業規則等によって、別に定められた賃金がある場合には、その賃金額で差し支えない」としています(つまり、例えばもっと低額の賃金を定めていても構わないことになります)
更に、厚労省は「基本給の他に一定月額の手当てを定め個々の労働者が法内残業をすると否とに拘わらず、これを支給することはその手当の金額が不当に低額でない限り差支えない」としています(「不当に低額」についての説明がありませんが、例えば法内残業時間が多くても少なくても、月○円の法内残業手当を全員に支払えば構わないと解釈されます)
上記のような解釈が成り立ちますが、もし訴訟になった場合に、裁判所がどう判断するかは不明です - 上記通達があるものの、法内残業においても、次項の割増賃金計算用の時間当たり賃金を用いて計算し、支払うのが一般的です
- 法内残業には割増分の支払いは不要ですが、就業規則や賃金規程に割増賃金を支払う旨記載していれば、割増分も支払わなければなりません
- 時間外労働、休日労働の割増賃金の計算基礎となる時間当たり賃金
- 割増賃金の計算基礎となる時間当たり賃金は、給与形態により、以下の通り算出しますが、次の賃金は計算に含めません
- 家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当
(全員或いは住宅の形態ごとに一律に定額で支給されているもの、或いは住宅以外の要素(例えば家族数等)に応じて定率又は定額に支給されているものは除く) - 臨時に支払われた賃金(退職金や結婚祝金、病気見舞金、等が該当します)
- 1ヶ月を超える期間毎に支払われる賃金(賞与等が該当しますが、例えば、支給額が何万円、或いは何ヶ月分と予め確定しているものは、賞与とはみなさないので計算基礎に含めます)
- 基本給だけで、手当は一切含めずに計算しているケースがあります。その場合は、未払い賃金が発生していることがありますので注意が必要です
- 家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当
- 時間給
- 時間給の場合は、その金額となります
- 日給
- 日給額を1日の所定労働時間数で除した金額となります
- 日により所定労働時間数が異なる場合は、1週間における1日平均所定労働時間数を用います
- 週給
- 週給額を1週間の所定労働時間数で除した金額となります
- 週により所定労働時間数が異なる場合は、4週間における1週平均所定労働時間数を用います
- 月給
- 月給額を1ヶ月の所定労働時間数で除した金額となります
- 月により所定労働時間数が異なる場合は、1年間における1月平均所定労働時間数を用います
(例えば、(365(又は366)−年間総休日数)÷12 とします)
- 年棒
- 賞与支給額が何万円、或いは何ヶ月分と予め定められているときは、年棒を12で除したものを1ヶ月の所定労働時間数で除した金額となります
- 月により所定労働時間数が異なる場合は、1年間における1月平均所定労働時間数を用います
(例えば、(365(又は366)−年間総休日日数)÷12 とします)
- 出来高払い制その他の請負給
- 賃金算定期間において出来高払い制その他の請負制により計算された賃金の総額をその期間の総労働時間数で除した金額となります
- 例えば、基本給100,000円、歩合給150,000円の労働者が月に192時間働き、そのうち、20時間は時間外労働だった場合、割増賃金額は、次のようになります
(100,000円÷172時間×1.25+150,000円÷192×0.25)×20時間
=18,442円
- 上記賃金の2つ以上が組み合わされている場合
- それぞれの賃金の合計額となります(例えば、時給制だが、月決めの手当が別にあるときなどが該当します)
残業時間数の算出
法内残業、時間外労働及び休日労働時間を正確に把握する必要があります。厚生労働省告示336号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(H13.04.06)を参照して下さい。
残業時間が、法内、時間外、休日のどれに該当するのか分かり難いケースがあります。当オフィスでは、小規模事業者向けに、エクセルによる労働(残業)時間及び給与を計算するソフトを作成しましたのでご利用下さい。 ⇒ 詳細は、こちらへ
- 変形労働時間制
- 変形労働時間制における時間外労働時間については、こちら(変形労働時間制)を参照して下さい
- 出来高払い制その他の請負給の場合
- 上述の方法で算定した金額に割増率(25%、35%、等)を乗じた金額のみで良く、通常の賃金分は支払わなくて構いません(通常は、1時間の時間外賃金としては通常の賃金の125%を支払いますが、この場合は、25%だけで良いということです)
- その他
- 時間外労働が継続して翌日の所定労働時間に及んだときは、所定労働時間の始期迄の時間が時間外労働時間となります
- 前日の勤務が法定休日にまで延長されたとき、或いは法定休日の勤務が翌日に延長された場合は、法定休日内の労働時間は休日労働となり、それ以外の法定労働時間を超える部分は時間外労働となります
- 連続3交替制、旅館業、自動車運転者の場合で、法定休日が暦日で付与されないで連続24時間の休息を法定休日としているケースでは、その特定した法定休日である24時間における労働(24時間を特定していないときは、24時間が確保されなくなった労働時間)が休日労働となります
- 1ヶ月における時間外労働、休日労働(及び深夜労働)の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合、30分以上は1時間に切り上げ、30分未満を切り捨てることは構いません
- 1日に複数の事業場で働くときは、労働時間は通算することになり、8時間を超えて使用していれば、その事業主が時間外の割増賃金を支払うことになっているようです(割増賃金は、時間数に応じて分担するという考え方もあるようです)
割増率
時間外労働と休日労働の割増率は次の通りです。法内残業には割増分の支払いは不要ですが、就業規則や賃金規程に割増すことを規定していれば、当然支払うことになります。
- 時間外労働の割増率
- 時間外労働時間数が60時間/月までは、25%以上
- 限度時間を超えた場合は、25%より高くすることが努力義務とされています
- 時間外労働時間数が60時間/月超は、50%以上
- 但し、60時間/月超の部分に対して代替休暇を付与する制度を導入することができます(代替休暇を取得したときは、相当分の割増率は50%以上から通常の時間外割増率(25%以上)となります)
- 1年単位の変形労働時間制において、対象期間の法定労働時間の総枠を超えて労働した時間が60時間を超えたときは、50%以上の割増率が適用されます(中小企業を除く)
- 休日労働の割増率
- 休日労働の割増率は、35%以上です
- 休日労働は、何時間働いても割増率は一律35%以上です(但し、休日の深夜に労働すれば、その分深夜割り増しが発生します)
- 休日労働となるのは、法定休日に労働したときのみで、例えば、週休2日制の場合、法定休日はそのうちの1日だけであり、残りの休日に働いたときは時間外労働となります
残業代の計算
残業代は、法内残業代、時間外労働に対する割増賃金及び休日労働に対する割増賃金を、それぞれ(時間単価)x(残業時間)x(割増率)で求め、合計します。
- 注記事項
- 上記の残業代の計算は、法に基づく最低額であり、これより多く支払うことは問題ありません
(例えば、法内残業に対しても時間外労働と同様に取り扱うといったことです。実際に、平日に所定労働時間を超えれば全て時間外労働とし、休日に出勤すれば全て休日労働として割増賃金を支払っている事業所もあると思います)) - 定額残業代については、こちら(定額残業代)を参照して下さい
- 時間外や休日労働が違法であったとしても、割増賃金を支払わなければなりません
- 割増賃金に関する労基法の規定は強行規定なので、労使で割増賃金を支払わない旨の合意をしても無効です
深夜業に対する割増賃金
残業ではありませんが、午後10時から午前5時まで(場合によっては、午後11時から午前6時まで)の深夜業に対しては、上記時間外や休日労働とは別に割増賃金を支払わなければなりません。
- 計算の仕方は、時間外労働や休日労働と基本的に同じです
- 深夜労働の割増率は、25%以上です